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ここに「留学生の就職を考える会事務局」名での留学生の雇用についてのコラムがある。
- 地方大学の就職課が留学生に決して言わないこと(1)〜福岡の留学生は10,000人を超えている!〜
- 地方大学の就職課が留学生に決して言わないこと(2)〜大分は東京の2倍の留学生を受け入れている!〜
- 地方大学の就職課が留学生に決して言わないこと(3)〜秋田では留学生よりも就活先の方が少ない!〜
- 地方大学の就職課が留学生に決して言わないこと(4)〜地元就職が一番難しいのは大分である!〜
- 地方大学の就職課が留学生に決して言わないこと(5)〜青森では1,100人分しか外国人の雇用がない!〜
以降も続くようだ。
留学生の就職問題は大学にとっても課題だ。とくに地方大学にとっては。
中国等の学生にとって、日本は留学先としては2番手、3番手に過ぎないが、地方の私大はその日本の中でもブランド力も弱く、優良な学生は大都市圏の大手に取られる状況。この中で留学生の質と数を確保するためには、就職先の確保は重要課題。
上記コラムでは、都道府県別の大学数、留学生数、都道府県別の外国人労働者雇用状況という三つの統計資料を利用して、都道府県別の「就職のしやすさ」というような指標を作っている。簡単だがファーストステップとしてはいい分析だと思う。ちなみに、私は労働経済の素人なので、以下のメモ・感想は素人なりの覚え書きに過ぎない。
使われている資料は次の通り。
文部科学省「学校基本調査」
日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査」
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
ただし、個別学生の戦略としてこの分析を使おうとするときには注意が必要だろう。自分にとっての就職しやすい地域とは、自分の学力や能力と周囲の直接的なライバルのそれとのバランス関係で決まるからだ。
たとえば、東京が大分よりも競争倍率が低いと言っても、東京には自分より優秀な学生や裕福で行動力があってコネも強い学生が集中するかもしれない。地域によって就活学生の能力に格差があるならば、全体での競争倍率など関係なく、自分が優位に立てる地域で就活する方が有利だ。東京大学では「出来ない学生」でも、地方私大では最優秀学生になれるかもしれないのと同じ論理だ。学生の就活について地域間での流動性が高くないとすれば、このような考え方が成り立ちうる。
もう一つ、国籍別の就職のしやすさの違いという論点もあるだろう。まず、企業の留学生雇用動機については、現地進出・現地企業との取引に必要な人材という観点から留学生を雇用するケースが多いと思われる。地域によって産業構造が異なることを考えると、地域によって比較的求人が多い国・地域が異なっている可能性がある。たとえば、鹿児島市では食品加工関連や畜産飼料・原油等の輸入関連、観光関連の求人が多いだろうし、群馬県の太田市や静岡県の浜松市周辺では、製造業関連を中心とした求人が多いかもしれない。取引先国の違いは、求人する国籍の違いを生む可能性がある。
また、太田市や浜松市ではブラジル人等の日系人雇用が多く見られるが、このことが留学生の雇用についてもブラジル人等への求人が多く出るということにはつながらないかもしれない。日系人は製造現場での雇用が中心なのに対して、大卒・院卒留学生は現場労働力とは異なった雇用になるだろうからだ。このように、上記「外国人の雇用状況」の数字を直接引き写して留学生の就職を論じることには一定の注意が必要であろう。
上で使われている資料について
1.厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」について
外国人雇用状況の届出状況|報道発表資料|厚生労働省(平成23年10月末現在)「全体版」(PDF)では統計指標あり。
外国人を雇用する事業所は、外国人の雇い入れ、離職の都度、厚労省に届け出る義務を負っている。
外国人雇用状況の届出制度は、雇用対策法に基づき、外国人労働者の雇用管理の改善や再就職支援を図ることを目的として創設されたものであり、すべての事業主に対し、外国人労働者(特別永住者及び在留資格「外交」・「公用」の者を除く。以下同じ。)の雇入れ又は離職の際に、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等について確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることを義務づけるものである。
出所:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」プレスリリース(平成24年1月27日)
率直に言って、これは不法就労者の存在をますますアングラ化する作用を持っていると思う。また、不法就労者を雇っている事業所は実際上届け出をしていないはずだから、この「状況」がどれくらい外国人の就労についての実態を表しているかは分からない。さらに、技能実習生は労基法適用範囲なのでこの統計には記録されているが、研修生は入っていないようだ。
ただし、留学生の多くは合法的に就労したいと思ってるだろうから、留学生の国内就職の可能性を事前に評価するという観点からは、この資料を利用することは妥当だろう。
(1)平成23年10月末現在、外国人労働者を雇用している事業所数は116,561か所であり、外国人労働者数は686,246人であった。【別表2】これは平成22年10月末現在の108,760か所、649,982人に対し、7,801か所(7.2%)、36,264人(5.6%)の増となった。
出所:厚労省 前掲プレスリリース2ページ
前年に比べて外国人雇用事業所数も外国人数も大きな伸びを示している。この資料しか見ていないので評価できないが、外国人の雇用状況が短期的に変動しやすい可能性がある。その場合、留学生の国内就職の可能性評価という点では、経年変化を見る必要がある。
そのほか、このプレスリリースを見て、就職可能性を見るときのポイントとしてすぐ思いつくのは、
・労働者派遣・請負という形での就労が少なくない→雇用形態の考慮が必要なこと
・製造業等での雇用が多い→業種・職種について考慮すべきこと
が挙げられる。
周囲の留学生を見たり、留学生の雇用に携わった人の話を聞いたりしていると、仕事の内容にこだわりを持つ人も多い印象がある。大ぐくりの集計的な需給バランスだけだと、ミスマッチの問題を見落としてしまうかもしれない。