「どっちがホント?」 異なる就職率が併存する理由と弊害

読んだので主なポイントをノート。
原記事:http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120829/236163/?P=1
「どっちがホント?」 異なる就職率が併存する理由と弊害――文科省厚労省の共同調査に潜む3つの由々しき問題点―
2012年8月31日(金) 上西 充子

端的なまとめ

就職内定状況調査の就職率は過大な評価である。
就職率の指標としては、学校基本調査から「非進学者の就職率」を算出して使う方が良い。
※非進学者の就職率=「就職者」÷(「就職者」+「一時的な仕事に就いた者」+「進学も就職もしていない者」)

感想

入学者、就職者の実数の推移と合わせて見るのがよいのではないか。
有力校といわゆるFランクと言われるような大学との間での就活事情の差はどのようにして見ることができるか。
早期離職者等の動向についても考えるべきだが、問題は複雑になる。

要約

大学等卒業者の就職率に関する調査が2つある。

文部科学省の学校基本調査(指定統計)
文科省厚生労働省が共同で行っている内定・就職状況に関する調査
※大学4年の10月1日、12月1日、2月1日、卒業後の4月1日の4回にわたって実施。卒業前に行った3回の調査は「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」、卒業後の4月1日の調査は「大学等卒業者の就職状況調査」。

二つの「就職率」が異なる理由

就職率を算出する際の分母が異なっているから。
学校基本調査:分母は卒業者数
就職内定状況調査:分母は就職希望者数

「非進学者の就職率」を使うのが現時点では適当。

学校基本調査から「もともと就職を希望していた者の就職率」を算出することは不可能。
だが現在のところ、学校基本調査から算出できる「非進学者の就職率」が重要な指標となりうる。
非進学者の就職率=「就職者」÷(「就職者」+「一時的な仕事に就いた者」+「進学も就職もしていない者」)

就職内定状況調査の問題点

就職内定状況調査の就職率は過大な評価である。
1.最大の問題点:内定率や就職率を算出する際の分母である就職希望者数が調査時点ごとに減少していき、結果として内定率や就職率が過大な数値となる点
調査開始時点での就職希望者数を分母に置いた内定率・就職率と、それぞれの調査時点での就職希望者数を分母に置いた内定率・就職率の両方が示されるべき。
「途中で就職をあきらめてしまった学生は『内定率』の数値では把握できない」というこの問題は、高校生の内定率の調査を例に取った内閣府「平成15年版 国民生活白書」のコラムで詳しく解説されている。

2.調査の開始時点が4年生の10月1日であり、その時点で既に就職をあきらめていた者は最初から就職率算出の対象外であること。
この時期は就職活動の終期であり、既にあきらめている者が相当数いると考えられること。

3.サンプルの対象校に偏りがあり、「就職希望者」の細かな規定がない点
3-1. 今年3月に卒業が予定されていた学生は約55万人だが、サンプル調査の対象はその1%未満の5000人程度。調査対象人員は「大学、短期大学、高等専門学校 計5690人」→大学生のサンプル数は不明。
3-2. サンプルに国立大学の比率が高く、対象校が不明。
上田晶美「研究ノート 大学生の就職率調査の現状とその問題点」(『嘉悦大学研究論集』第54巻第2号通巻100号2012年3月)
調査の依頼先は、国立大学21校、公立大学3校、私立大学38校。調査対象校の33.9%が国立大学。しかし、全国の大学全体に占める国立大学の比率は11%(平成22年度学校基本調査)。就職内定状況調査結果についての文科省側の発表資料によれば、国公立大学の就職率は私立大学に比べて高い傾向にある。
3-3. 上田(前掲論文)→「就職希望者」の選定は各大学の担当者に任されている。
政府による対策を最も必要としている学生層が分母から外れて、統計上の数値から消えてしまう可能性がある。
以上