東北大学の非正規職員の雇い止めの記事

東北大、無期雇用採用試験で131人不合格 雇い止めか:朝日新聞デジタル
2017年11月29日07時16分

 東北大が非正規職員の有期雇用契約を5年を超えて更新できないよう規則を改めた問題で、大学は28日、非正規職員を対象にした無期雇用の正職員への採用試験の結果を公表した。応募した821人のうち合格は690人。職員組合によると、不合格となった131人は雇い止めになる可能性が高いという。

 東北大の有期雇用の非正規職員は3759人(今年4月時点)。このうち講師や医師らを除き、約1千人が来年3月末に雇用期間が5年に達する。

 改正労働契約法では来年4月から、通算5年を超えて契約更新を繰り返すと、労働者が無期雇用化を求めることができる。このため東北大は5年を超える契約更新ができないように規則を変更。現在の非正規職員を対象に、業務などを限定した無期雇用の正職員を募集していた。

 大学ホームページによると、試験では9、10月に書類選考や小論文、面接などを実施。職員組合によると、合格者は教授秘書や医療職などが多く、不合格者には事務職が多い。不合格者は来年3月末かそれ以降に雇い止めになる可能性が高いという。

 職員組合は「応募したくても(教授らの)推薦が得られずに断念した人もおり、実際に雇い止めになる人はもっと多い。雇用の安定という法の趣旨に背を向ける脱法行為だ」として改善を求める。

 東北大は「希望する非正規職員全員の無期転換を行うことは大学の経営上困難」などとする見解をホームページに掲載した。(井上充昌)

「研究室の母」が雇い止めに…? 「大混乱」と現場反発:朝日新聞デジタル
2017年11月17日09時33分
 東北大学で働く非正規職員が、雇い止めの不安に直面している。来年4月に改正労働契約法によるルール変更が具体化するのを前に、大学側が5年を超えて雇用契約を更新できないよう、就業規則を変えたためだ。職員組合は「教育や研究が大混乱する」と反発している。

 来年4月以降も仕事を続けられるだろうか――。大学の研究所で有期雇用の教授秘書として働く後藤洋子さん(54)は、不安を感じる一人だ。

 1年契約を更新し続け、勤続12年になる。週5日勤務し、いまの時給は1210円。成人した長女や次女の奨学金返済などを手助けするのに欠かせない。

 秘書は、教授のスケジュール管理や出張旅費、試薬購入費の伝票処理など、研究室の幅広い業務を担う。そのほか、就職活動で悩む学生の相談に乗ったり、資料提出の締め切りに気付かせてあげたり。学生らの芋煮会の準備を手伝うこともある。後藤さんは「タイからの留学生は『おかあさん』と呼んでくれる」と言い、「研究室の母」を自負。誰でも同じようにできる仕事とは思っていない。

 こうした中、後藤さんらに雇い止めの懸念が浮上している。大学側は2014年に就業規則を変更。有期雇用の契約期間の上限を「原則5年まで」とした。改正労働契約法施行時の13年4月時点にさかのぼって適用されるため、18年4月から雇い止めになる職員が出始めることになる。

 労働契約法では「5年ルール」が定められ、通算5年を超えて働く有期雇用の労働者は、希望すれば無期雇用に転換される。だが、規則変更をした東北大では5年を超えて働けないため、無期転換されない。

 東北大によると、大学には17年4月時点で約1万人の教職員が在籍。うち3759人が非正規という。雇い止めの対象は秘書や事務職員、技術職員、医療職員などで、医師や講師は対象外。来年3月末に5年に達するこれらの有期職員は1138人いる。職員組合は「雇用安定を目指す法の趣旨を無視した、いわば大量不当解雇だ」と反発。大学側と交渉を重ねてきた。

 その結果、大学側はいったん「雇い止めの方針を見直す」と組合に伝えたが、今年1月に一転、新たな方針を提示した。雇い止めの対象となる有期職員らを対象に「優秀な人材の確保の観点から」として、無期雇用の「限定正職員」を募集し、新たに採用する。

 だが、組合には「正職員に応募しようとしたが推薦しないと告げられた。結局雇い止めと同じ」「時間雇用は組織の部品だ。ちょうど良い機会なので一斉にお払い箱にしようとしている」などの声が寄せられている。組合は、正職員への不採用を口実に多くを雇い止めしようとしているとみているが、いまも採用数など詳細について大学側から回答はないという。

 東北大の成田邦彦人事企画部長は16日、取材に、就業規則の改定については「1年ごとの契約更新時に労働条件通知書で『5年が上限』と明記し、それぞれの労働者と合意した形になっている。もし不満ならその間に次の働き口を探してもいいし、辞める自由もある。手続きは適正だ」と主張。改正労働契約法の趣旨が雇用の安定である点については、「無期転換そのものより、処遇を改善する方が大切だ」として、希望する人に限定正職員の募集をしていることを強調したが、採用規模は今月末の合格発表まで回答できないとした。

国立の他大学でも懸念
 雇い止めの懸念は、東北大だけの問題ではない。文部科学省が今年3月末時点で調査したところ、全国86の国立大のうち「原則、無期転換する」と答えたのは、秋田大や浜松医科大、愛知教育大など6大学だけだった。

 「更新に5年以内の上限を設ける」としたのは福島大や千葉大など18大学あり、このうち「別途の無期転換制度がすでにある」としたのは東北大を含めて3大学あった。東北大は新たに設ける限定正職員制度を「別途の無期転換制度」と位置づけているが、登用試験への不安が根強い。

 5年上限を設ける大学のうち、ほかの15大学は「一定の要件を満たした場合に5年を超える更新を認める」としている。東大はその要件に「(5年を超す長期の)プロジェクトなどの存続期間で役員会の承認を得た人」を挙げる。全国大学高専教職員組合(東京)によると、雇い止めの原則廃止を求める組合側との交渉が続いている。

 最も多かったのは「職種によって異なる対応」とした56大学。同組合によると、その一つである名古屋大は7月、職員組合との協議を経て原則的に無期転換する方針を決めた。ほかにも、複数の大学が雇い止めを防ぐ方針を決めているという。(井上充昌)

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 〈労働契約法の「5年ルール」〉 有期雇用の人の契約が繰り返し更新されて通算5年を超えると、無期雇用への転換を求めることができるルール。いつ「雇い止め」になるか分からない非正社員の不安定さが問題になり、民主党政権下の2012年8月に成立、13年4月に施行された改正労働契約法で定められた。1年契約の労働者だと5回目の更新後に転換を申し込めば無期契約になる。雇う側は断れない。18年4月から順次、転換できる。

私の身近な経験では、産休を申請した非正規職員に事務局長がパワハラをかけて自主退職に追い込んだ事例、5年目にかかる非正規職員をまとめて雇い止めにしてその部署担当が完全に一新された(根こそぎ切られた)事例、数年継続していた人を新任で来た新たな上司の「あの人嫌い」の一言で切った事例、がある。今回の東北大学の無期雇用「採用試験」でも「合格者は教授秘書や医療職などが多く、不合格者には事務職が多い」とのことで、選別にはかなりの恣意性を感じる。
大学では非常勤講師の使い捨ても横行していて、専任教員の中にも非常勤講師は「便利なお手伝いさん」という認識で、本務校を持たない非常勤講師を蔑視・差別する空気が強い。本務校を持たない非常勤講師にはせめて早めの通告をと言うのだが、以前には後期授業終了後になってから降って湧いた専任教員の不祥事の煽りを食って雇い止めが決まった事例もあった。日頃は体制の横暴や社会の不条理を指弾している人や権力構造を研究している人が被雇用者の選別にためらいがなかったりするのも辛い話である。