もやしの価格

モヤシ:まだ安すぎ? 生産者異例の訴え、値下げ圧力なお - 毎日新聞
毎日新聞2017年11月26日 09時30分(最終更新 11月26日 11時05分)

 モヤシがあまりに安い−−。原料費が高騰する一方で小売価格は低下し、製造業者の団体が3月に文書で窮状を訴えた。なじみ深い食材ということもあって異例の訴えがインターネット上で注目され、値上げ支持の声も上がった。この騒動、その後どうなった?【川畑さおり、増田博樹】

 室温25度前後の真っ暗な部屋に巨大タンクが並ぶ。旭物産(水戸市)のモヤシ工場。タンクをのぞくと白く透き通ったモヤシが密生する。原料の緑豆に定期的に水をやり、1週間ほどで育つ。季節や天気と無縁。価格は安定し消費者にはありがたいが、専門知識を持つ社員が1日に2度、目視で芽の伸び具合を点検し、水の量や温度を微調整するなど栽培に手間がかかる。原料の緑豆は大半が中国産で価格は上昇基調。2015年の価格は10年前の3倍だった。

 モヤシの価格で窮状を訴えたのは「工業組合もやし生産者協会」(東京都)だ。「09年に全国で230社あった業者が100社以上廃業した」と危機を訴え、ネット上で「業界が理想とする1袋40円でも安い」「モヤシ屋さんがなくなる」などの投稿が相次いだ。

 関東地方が地盤のスーパー「ヤオコー」は9月に1袋200グラムの価格を税抜き19円から25円に値上げした。「業者の要請で転嫁せざるを得ない」(広報担当者)。値上げの動きは広がり、協会の林正二理事長は「業界の要請だけでは難しかった。ネットで消費者の理解が進み、小売り側で値上げ環境が整ったのでは」と安堵(あんど)する。

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 だが状況は楽観を許さない。長野県松本市のスーパーは今も19円で販売する。競合店が値下げしたこともあり、担当者は「この店は安い、という店全体のイメージに関わるので上げたくても上げられない」と打ち明ける。

 総務省の家計調査でも平均価格は協会が窮状を訴えた3月に100グラム15円70銭だったが、9月は15円65銭と下落。同時期、愛知県のスーパーがモヤシなどを1円で売り、不当廉売で公正取引委員会に警告を受けた。

 東京都練馬区などが地盤のスーパー「アキダイ」は以前からの値段を維持するが仕入れ価格引き上げは受け入れた。価格据え置きの理由はモヤシの商品特性にある。秋葉弘道社長は「販売点数が多く、値上げで売れ行きが鈍って鮮度が落ちれば『他の野菜も新鮮ではない』と思われ、客離れが起きかねない」と説明。モヤシは「いわば店の鮮度のバロメーターだ」と言う。

 食品価格に詳しい農畜産物流通コンサルタントの山本謙治さんは「生鮮食品は利益より客寄せの性格が強く、スーパーは仕入れ値を下げろと業者に圧力をかけがちだ。卵も特売品だったが業界団体の努力で改善している。モヤシはまだスーパー側の圧力が大きい」と分析。「日本の公取には安値販売を企業努力と見る意識があるが、英国には加工食品の小売価格が適正かどうかを監視する政府機関があり、参考にすべきだ」と話す。

掲載図:「モヤシ生産関連価格の推移は…」魚拓

雑豆需給が逼迫しているのは中国の経済発展と食糧政策の反映らしいので、原料豆の高値傾向は今後も継続するのだと思う。
他方、もやしの価格低落傾向については、この記事では買い手の交渉力が強まっていることだとしているのだが、私のすごく表面的な検索結果によれば、規模の経済性をめぐる売り手側の競争があるのではないかという気がしている。少数の有力業者が大規模化し、低価格での出荷に耐えられるようになっていることが、価格低迷と業者数減少(小規模業者淘汰)の一因ではないかという予想なのだが。
もし私の想像が当たっていたら、仮に(違法だけど)業界全体で価格維持に成功したとすれば、低コストな大規模業者はレントを稼げて利益率が向上し、更に規模拡大誘因を持つから、放っておけば供給過剰傾向が生じて値下げ圧力が働くだろう。だから、業界はメンバーの生産規模についてもカルテルが必要になるだろう。他方で、カルテルには常に裏切りの誘因が働くから、有力業者ほどカルテルを抜けたくなる。業界にはそれを抑止するための政治的なしくみが必要になるだろう。現在のもやし業界にそういう組織化が可能な条件があるのか、私は知らないのだけれど。