NHKラジオ第一放送 2010年12月8日NHKジャーナル

韮崎市の「買い物弱者」対策とスーパー「やまと」の取り組みについての報道の書き起こし。
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続いて甲府からのリポートです。
近所の食料品店などが次々と閉店して、普段の買い物にも困るという「買い物弱者」。その数、お年寄りを中心に全国で600万人に上ると見られています。

そうした中、山梨県韮崎市では、地元のスーパーが核となって、買い物弱者の問題を解消しようという取り組みが始まっています。甲府放送局の金丸宗(そう)ディレクターが取材しました。

山梨県韮崎市の本町(ほんちょう)地区は旧甲州街道沿いで、かつては市の中心地域として商店が建ち並んでいました。しかし26年前、全国展開の大型店が進出して以降、ショッピングセンターが郊外に次々と出店、客足を奪われて本町地区の食料品店のほとんどが廃業してしまいました。そして今年の3月には唯一残っていたコンビニエンスストアも採算が取れないとして撤退しました。以来、地域に暮らすお年寄りは1kmあまり離れたスーパーに徒歩やバスなどで出かけて買いだめをしなければならなくなったんです。地区のお年寄りに聞きました。

「一週間分買うんです。そりゃ大変ですよ。たくさん荷物がねえ。」

こうした地元住民の窮状に対策を迫られた韮崎市は、補助金を付けた上で店舗を運営してくれる企業を探しました。そうした中、地元スーパーの1社が唯一打診に応じました。閉店したコンビニの店舗を利用し、「韮崎まちなかステーション」としてミニ店舗をオープンさせたのです。広さ80平方メートルほどのスペースに野菜や魚などの生鮮食料品やさまざまな調味料、洗剤やたわしなどの日用品も取りそろえたミニ店舗には、昼間、お年寄りがひっきりなしに訪れています。利用者の声です。

「でもね、ここはいい。私たちのためにいいお店です。」
「近くていい、うんと。うん。」

ねえ、これ車の運転ができないお年寄りにとっては本当に助かりますよね。

ええ、どなたに聞いてもですね、本当にここにできて助かっているんだよっていうことをね、口々におっしゃっていました。で、この店舗を経営するのが韮崎を拠点に県内に12店舗を展開している地元スーパーなんです。かつて本町地区に店を持っていたという縁もあって出店を決断しました。もと鮮魚店だったんだそうなんですけどもね。

最低10年間の営業を続けることを条件に、市は700万円あまりの補助金を出します。しかし、すでに設備の整備や改装に1200万円かかっているということなんです。この地元スーパー社長、小林久さんです。

「これは地元の企業であるうちが受けざるを得ないなあっていうことは、そのときに初めに感じました。ただ、小さいお店をやったことがなかったので、経営として成り立つかどうかっつーととっても不安だったし」

そうですよねえ。小さいお店をやったことがない。さらにですね、かつてコンビニエンスストアが撤退した場所ですよね。これ、ミニ店舗を開いたからといって、これ採算、取れているんでしょうか。

ええ、開店してから3ヶ月になるんですけれども、何とか収支が成り立っているんです。で、そのためにスーパーはさまざまな工夫をしているんですね。で、まず編み出したのは、お年寄りのニーズに応えて毎日多彩な生鮮食料品をそろえ、かつ売れ残りを出さないことなんです。ミニ店舗には市内にある系列のスーパーから頻繁に商品を補給します。配送は毎日少なくとも4、5回にも及ぶんです。営業時間はお年寄りが利用しやすい午前9時から午後8時まで。閉店時間が近づいてくるとミニ店舗から生鮮食料品を引き上げ、深夜まで開いている別の店舗に運んで販売します。こうすることでロスを減らすことができました。また、狭い店舗のスペースを有効活用するため、お年寄りにはあまりニーズのない雑誌コーナーは縮小しました。こうした工夫によって、小さくても品数をそろえ、お年寄りのニーズに合う店に再生することができたんです。で、このミニ店舗の出店をきっかけに、この地元スーパーは他の地区の買い物弱者対策にも乗り出しました。

ほう。で、どんな対策なんでしょう。

ええ。地域の食料品店の廃業が買い物弱者を生んでしまうことから、経営が厳しくなった地域の個人経営の食料品店を支援することにしたのです。その一つ、甲府市にある老舗の食料品店です。ここも近くに大型スーパーが出店したことから利用者が激減して経営の危機が訪れていました。それでこの地元スーパーに支援を要請してきたんです。

地元スーパー社長の小林さんは、少ない売上に合わせて仕入れの量を調節することが大事だと考えました。そこで小林さんはこの老舗食料品店と協議をし、仕入れの際には一般の問屋からではなく、この自社のスーパーの売り場から必要な品物を必要な数だけ仕入れることを提案しました。

小林さん「うちの方としてはね、一袋からでも結構ですので、客数にあった仕入れをしていただければ、うちの方はそれで結構です。」

スーパーは仕入れ値で食料品店に卸します。食料品店はコストダウンが可能になり、店を続けられる可能性が出てきました。老舗食料品店経営者の話です。

「問屋さんはもうほとんど…?ケース単位?…の取引になってますので、非常に助かります。」
「できるだけ地域のお年寄りの方たちのニーズに応えるようにしていきたいとは思っています。」

なるほどね。あの、食料品店に代わってスーパーが品物を仕入れて提供すると。うーん、ただこのスーパーがですね、卸値で提供するとなりますと、これスーパーの利益っていうのはどうなんでしょうか。

ええ、今の段階ですぐにスーパーに利益があるということにはならないんです。しかし今後地元で支援する店が増えれば、スーパーの仕入れる量が増えて、仕入れ価格を下げることにも結びつくと考えています。再び地元スーパー社長の小林久さんです。

「まあこれをきっかけにですね、地域の他のお店とも共存の道、小さなお店もがんばればやっていける、そういうかたちを今後ともやっていきたいと思っています。」

経済産業省は店のなくなってしまった地域に再び小さな店を復活させる買い物弱者対策をスタートさせました。社会が高齢化する中で、身近にある小さな商店をいわば生活に必要なインフラとして維持する。今回ご紹介したスーパーのミニ店舗や個人商店の支援がうまく軌道に乗っていくことは、そうした可能性をさらに広げることにつながると思います。

甲府放送局の金丸宗(そう)ディレクターでした。