乗用車への依存が「地方」を疲弊させているという藤井聡氏の意見

「クルマ、地方疲弊の重大原因の一つ」藤井聡・京大教授:朝日新聞デジタル
2018年2月15日02時14分

京都大学教授 藤井聡さん
 クルマは日本の地方を疲弊させている重大な原因の一つです。地方ではクルマがなければ何もできない。それが常識になっていますが、クルマへの過度の依存を止めなければ、地方創生はありえないでしょう。

 全国の地方都市が悩んでいるのが中心市街地の空洞化です。かつては規制されていた大型ショッピングセンター(SC)が郊外につくられ、人々はクルマで出かけていく。中心部は衰退してシャッター商店街と化し、鉄道やバスなどの公共交通機関に大きな打撃を与えました。クルマは、ある水準まで拡大すると他の交通手段を駆逐し、多様性を失わせる傾向があります。

ログイン前の続き 都市は駅や港、城などの点を中心として、施設や人が集積する効果で競争力を保っています。中心にはにぎわいがあり、人々が交流する公共空間がある。それは人間が人間であるために、必ず求められるものです。しかし、郊外はべたっと広がる面ですから、中心にはなりえない。地方都市の郊外化は競争力を失わせ、東京など大都市への人口移動を促します。

 また、私の研究室の調査によれば、全国チェーンの大型SCで生鮮食料品を買うと、出費の8〜9割が地域の外へ流れていきます。日本中、世界中から商品を集めているからです。一方、地元商店街はその地域から仕入れる比率が高く、5〜6割は地域に還元される。言い換えれば、全国チェーンの大型SCはお金を吸い上げ、地方経済を疲弊させていくシステムです。

 郊外化に対抗して、中心市街地には駐車場が整備されました。しかし、私の調査では、人々が商店街でクルマとすれ違うと楽しい気分が損なわれてしまう。むしろクルマを締め出すことで人は戻ってきます。歩行者天国のにぎわいを思い出してください。京都市では3年前、中心部の四条通りの車線を減らし、歩道を広げて歩きやすくしたら歩行者数が1〜2割増えました。

 富山市では中心部の道路をイベント広場に変え、路面電車の一種であるLRTを整備して真ん前に駅をつくりました。北陸新幹線の開業もあり、年間約35万人が新たにLRTを使って中心部などを訪れたと推計されています。沿線の地価も上がりました。

 言うまでもなく、クルマ産業は日本経済にとって最後の頼みの綱です。また、高速道路はトラック輸送のために必要です。ただ、それは物流を支えるものであり、「人流」までクルマが担うべきとは限りません。クルマの利用をかしこく制御する「交通まちづくり」こそが、地方をよみがえらせることができると考えています。(聞き手 編集委員・村山正司)

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 1968年生まれ。都市社会工学専攻。内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。著書に「クルマを捨ててこそ地方は甦(よみがえ)る」「列島強靱(きょうじん)化論」など。

都心部から車を排除しようという発想は以前からあり、実例もある。交通論は勉強すべき領域だと思っているんだけど……。地域の選別という懸念、効果・成否の条件、車締め出しを実現するプロセスのあたりに興味がある。人口希薄地に望ましい交通体系との違いとかも。
京都市中心部のような人口稠密かつ観光客増加中の地区と、人口減少と郊外化が長期にわたり進行している薩摩川内市の中心商店街のような地区とでは、効果がかなり異なるのではという気もする。
次は気になる点。
「全国チェーンの大型SCで生鮮食料品を買うと、出費の8〜9割が地域の外へ流れていきます。日本中、世界中から商品を集めているからです。一方、地元商店街はその地域から仕入れる比率が高く、5〜6割は地域に還元される。」
どうやって調査したのかな。どこかに論文出てないかな……。
ところで、例えば大型小売店を日本から全て消したとして、商店街の地元調達率は不変だろうか。グローバル調達の機能をまかなう中間流通が発達しそうな気もする。あと、商店街でも食料品販売はスーパーが入っていることが多いと思うが、そのスーパーの調達も差があるんだろうか。
個人商店の調達力が低いのを前提とすれば、確かに地産地消の傾向は強まるだろうが、それは調達費用が高くなる(非効率化する)ことでもあるから、生鮮食品の小売価格は上昇し、消費者余剰は減少するだろう。それは地域間分業の利益を失うことでも強化される。また、商品選択の多様性の利益も減少するだろう。他方、地域ごとの食の多様性(郷土色)は強まり、地域の食料品関連産業の比率が高まり、域内消費に伴う経済循環は深まるので、そちらの波及効果は高まるだろう。ただし、北海道や九州など食料移出地域は多少打撃を被るかもしれない。