とりあえずブクマ:もやしの話

前篇:「もやし」を日本中に広めたのは戦争だった|食の安全|JBpress
後篇:「もやし」が一大事!悲鳴をあげる生産者|食の安全|JBpress

後篇から抜粋。

取材先の工場

もやし・カット野菜を製造販売する旭物産(茨城県水戸市)のもやし工場。
同社3拠点のうち、取材した小美玉工場(茨城県小美玉市)は、もやしの生産をメインとする工場だ。2010年に建てられ、1日60トン、30万袋のもやし生産能力をもつ。
1袋200グラムの計算。これが関東一円に出荷されるとのこと。他社もあるだろうから、関東だけで1日30万袋以上のもやしを消費するぐらいのことが考えられている。ただこれは「能力」の話だから実際の出荷数はもっと少ないだろう。稼働率が平均でどれくらいかが一つ。
あと、1年間フル生産したら60トン×365日=21900トンだから、おおざっぱにこの工場だけで年間1万5千トンぐらいは供給しているのかなと思ったりする。

原料

もやしの原料豆の9割を占めているのが、緑豆だ。そのほぼ100%が中国から輸入されている。林氏によると、日本のもやしとなる緑豆の主産地は吉林省または内蒙古の平原地帯。「ただし、私どもは陝西省の緑豆を輸入しています。もやしとしての日持ちがよく、しゃきしゃき感がなかなか失われないためです。1〜2割ほど割高になりますが」と補足する。寒暖差があることが豆栽培に適した環境だという。
もやしの原料はほぼすべて緑豆。豆は中国から輸入。生産地は東北部と内陸、寒暖差があるところ。

生産工程

原料豆をぬるま湯に浸して、シートを被せてしばらく寝かせ発芽を促す。「カビが発生するのと似た温度・湿度の生育条件なので、雑菌が大敵です」(阿部氏)。

 寝かし終えた原料豆を、大きな風呂桶をさらに深くしたようなタンクに入れていく。1つのタンクに原料豆およそ100キロを入れる。これを適度に保温・保湿された「室(むろ)」と呼ばれる部屋に置き、8〜9日間かけて発芽させ、もやしにしていく。
(中略)
原料豆は、発芽時の呼吸で「発芽熱」を発する。タンクに密集した原料豆に熱がこもりすぎると「煮豆状態」になり、もやしにならなくなる。そこで、強圧の水を繰り返し与えていく
(中略)
 タンク1槽およそ100キロの原料豆は、水を得て育ち1トン強のもやしになる。
(中略)
 手作業工程もあるが、全体としてはコンピュータと機械による自動化がなされている。室温や湿度、それにもやしの温度などは随時モニタリングされ、育成制御装置で管理されている。かつては、手動による温度・湿度管理が行われていたが、腐ることとの戦いだったという。ただし、「同様のシステムを導入しているメーカーは限られている」

100キロの豆が1トン強のもやしになる。重量にして10倍以上、十数倍というところか。→ウェーバー立地論で言う市場立地志向か。
タンク1槽で1トン強、フル生産で1日生産60トンだから、1日に使われるタンク数は40〜60槽、間を取って50槽ぐらいか。8〜9日の栽培期間なので、400〜500槽ほどが使われることになる。写真を見ると、1部屋に12槽ほどあるようだから、こうした栽培室が40〜50室あることになる。すごく大きな工場なのではなかろうか。
全自動システムを導入している業者が限られているというのも、この企業が業界を代表するような大手で、他の中小企業にはそこまでする体力・必要がないという状況があるのではないか。

原料豆の高騰ともやしの販売価格

「もやし生産者協会」は2014年12月、全国のスーパーマーケットなどに「もやし原料種子の高騰について」という文書を送付した。「もやし生産者が仕入れる2014年産の『緑豆』の価格は、 10年前と比較して約3倍、前年比では40〜50%増と大幅に上昇することが予想されます」

「緑豆自体は日本を含め世界中で栽培が可能です。ただし、もやしに適する緑豆となると、現状では中国に限られます」

 中国で緑豆の価格が高騰する背景に、農業の変容がある。現地の農家たちはもやし向けの緑豆より高い価格で売れる高粱(カオリャン)やとうもろこしなどを栽培するようになり、その分、緑豆の作付面積は減った。2014年は、収穫期の天候不順や円安なども、緑豆の価格高騰に追い打ちをかけた。

生産要素市場での競争によって生産物価格が上昇する例の一つになっている。農産物は分かりやすいしバイオエタノールのように報道されたりして目につきやすい。実は、建設業や労働集約的な地場産業、飲食業などのサービス業の人手不足も労働市場における他産業との競争の結果なのだが、人手不足についてはなぜか生産物への価格転嫁が進むだろうとか進めるべきだという話にはなりにくいようだ。
閑話休題。結局、記事によれば10年前の原料豆価格を100とすると、去年は200、今年は300になるということ。10年間で2倍になったということは、年平均で10%弱の上昇率になる。
価格に占める原料費がどれくらいかによって原料高騰の影響の大きさはかなり変わるので、どれくらい深刻なのかは分からない。ただ、規模拡大と自動化とに相関があれば、中小業者ほど原料高騰の影響が大きいだろうことは想像できる。自動化が進んでいなければ、ブルーカラー労働への人手不足の影響も重なりやすいかもしれない。

採算性

 「20年前は1袋40円ほどでした。いま、平均29円ほどですが、40円にしていただければ、日本のもやし生産者はなんとか生きていける」

「もやし生産者は激減しています。この5年間でも、208社から148社まで減りました」

えっ?どこでそんなに安いの?うちの近所だと以前は最安値が29円、最近は30円台以上になって、税抜きでも30円台後半なんだけど。平均が29円って…。
もやし生産者組合の統計ページによれば、この価格は家計調査から算出した平均価格らしい。うちの近辺では特売日でもそんなに下がらないんだけどなあ。どこかに爆安地帯があるのだろうか。謎である。
ところで、30円を40円にすればとりあえず採算を取れるということだから、ごく粗く試算すると、この10円の差が(過大評価気味だと思うけど)原料豆の去年から今年の上昇分だとして、これが価格上昇50%に相当するのだから、元の豆の価格は20円、すなわち、20円が10円上がって30円になるので、50%の価格上昇という勘定になる。つまり、今のもやし1袋では20円が原料豆の費用ということになるから、販売価格平均29円というと……えっ?29円中20円が原料豆の費用??うーん、それはいくらなんでも非現実的ではないかと思うので、この29円を40円に上げてほしいという10円の中には、他の費用分も含まれているのだろうと想像する。

あと、もやし業者数が5年前には208だったということで、これはもやしを作っているところは全国に200ほどしかなかったということなのだろうか。どうやって調べているのだろう。
5年間で208から148へ60社減ったのは大きな減少だが、店頭に並ぶもやしが大きく減ったという印象はないし、この5年間でもやしの価格は安定かむしろ下落気味だという話だから、

  1. 中小零細が淘汰された
  2. 輸入にとって代わられている
  3. 「もやし生産者組合」が捕捉できる業者が減った

のどれかが起きているのではないか。

というわけで、ちょっと調べてみた。

もやし生産者組合のウェブサイト「もやし生産者協会- もやしは、水だけで育てる安心安全な工場野菜です」によれば、

  • 2014年4月1日現在で組合員数は68名(もやし生産者)、1号賛助会員が6名(もやし生産者)、2号賛助会員16名(関連企業)、3号賛助会員4名(関連企業)ということらしい。
  • もやし業者数148というのをどうやって調べているのかこのサイトでは分からなかった。
  • もやしの統計ではここ数年国内生産量は増えていて40〜45万トン、家計調査ベースで2人以上世帯あたり年6〜7キロぐらい。
  • ただ日本全体では単身世帯比率が大きいし(国調ベースで3割以上と最多)*1、家計調査は比較的大都市にサンプルが多いし、単身者と家族とで食生活はかなり異なるだろうし、加工品や外食中食で消費されるもやしも多いと推測されるので、全体の状況は家計調査そのものや輸入数量なども見ないとちょっと分からない。
  • このサイトの「もやしの歴史」が楽しい。
  • 原料豆の価格推移については、「もやし原料種子の高騰にご理解を! | もやし生産者協会」にもっと詳しく出ていた。

というわけで、たぶん、記事で取り上げられている旭物産の小美玉工場は相当大きな工場になるのだろうと思う。この工場は2010年に建てられたというから、ちょうど生産者数が大きく減った時期にあたっている。しかもこの時期は国内生産量が伸びている。だから考えようによっては、この最新鋭工場が他の業者を駆逐したと言えるかもしれない。つまり、撤退する企業がたくさん出ている一方で、生産規模を拡大して売上を伸ばしている企業もまた少なくなさそうだ。

フェルミ推定」?

ところで、もやしの国内生産量と国内消費量について目の子算を行ってみた。
世帯数や人口は統計によってかなり幅がある。とりあえず2010年の国勢調査によれば、
総人口は1億2805万7352人,世帯数は5195万504世帯。単独世帯が32.4%だから、単独世帯数は1683万1963世帯。つまり単独世帯の人数は1683万1963人だからこれを総人口から引いて、1億1122万5389人。また2人以上世帯は3511万8541世帯あることになるから、2人以上世帯の平均人数は、3.17人。
これが平均して仮に6〜7キロのもやしを買っているとすると、1人当たり1.9〜2.2キロぐらいになる。単独世帯でも同じように買っていると仮定すると、日本の家計全体のもやしの購入量は、総人口をかけて、24.3〜28.3万トンになる。もやしの国内生産量を40〜50万トンとすると、これはおよそ国内生産量の5割から7割を占めることになる。
もやしの国内消費については、このほかに、加工品、外食、中食として消費される分があるが、外食と中食は、支出ベースで見る限り、おおざっぱに30〜50%の間、40数%あたりのようだ*2。もやしの内食・中外食比率も他と変わらないと仮定すれば、今回の目の子算でもまあまあの推測になっていると言える。そう考えると、それほどもやしの輸入は多くないのかもしれない。

*1:なるほど統計学園高等部 | 世帯の構成

*2:食の外部化率 site:go.jp」や「外食 中食 食料費 site:go.jp」等で検索。※食の外部化率=(外食産業市場規模+料理品小売業市場規模)÷(家計の食料・飲料・たばこ支出−たばこ販売額)+外食産業市場規模)