中小企業白書2005年版の「新卒者採用内定割合」に関するグラフは適切か。

中小企業白書2005年版「日本社会の構造変化と中小企業者の活力」に「第3-2-42図 新卒者採用内定割合〜新卒者を採用する中小企業は少ない〜」と題するグラフがある。
・「中小企業庁:(2)中小企業における新卒者の採用」, 『中小企業白書 2005年版』, 第3部第2章第6節1.(2)

このグラフの使い方は不適切ではないか。

例えば、このグラフでは、「高等学校」新卒者について、「平成16年3月卒業予定者を採用内定していた企業の割合」として企業規模別に次のような数値を挙げている。

企業規模  
30〜99人 13.1
100〜299人 21.1
300〜999人 33.6
1,000〜4,999人 37.9
5,000人以上 44.3

このグラフの元の資料は厚労省の「平成16年雇用管理調査」第4表「企業規模、産業、新規高等学校卒業者の採用内定の有無別企業数の割合」である。(e-Statの統計表一覧

この統計表を見ると、上記の数字は調査対象企業のうち「採用内定した」と答えた企業の割合を規模別に見たものであることが分かる。つまり、「30〜99人」の層では、調査企業のうち16.7%が「採用内定した」と答えたという意味である。

この数字を用いて、中小企業白書が言うように「中小企業における新卒者の採用は大企業と比べて少ない」とか、「規模が小さい企業ほど採用する割合は低くなっている」(白書本文)とか、「新卒者を採用する中小企業は少ない」(グラフタイトル)とかと言うことは妥当だろうか。

「新卒者を採用する中小企業が多いか少ないか」という問いは、
1.中小企業の中で、新卒者採用が1人でもある企業の割合はどれくらいか
2.正社員採用をした中小企業の中で、新卒者採用が1人でもある企業の割合はどれくらいか
3.中小企業の正社員採用総数に占める新卒者の割合はどれくらいか
4.新卒者の採用数に占める中小企業の割合はどれくらいか
といういくつかの異なった問いに変換できる。白書のグラフが示しているのはこの1の問いへの答である。しかし、問いとして適切なのは上記の3または4であろう。
白書の本文では中小企業において新卒者の採用が少ない理由として、次の諸点を掲げている。
1.新卒者は人材育成に時間が掛かること(中途採用の方が効率がいい)
2.新卒者は大企業での就業を希望することが多いこと(企業規模別の情報発信力の差)
このことから、白書の文脈では、「中小企業における新卒者の採用は大企業と比べて少ないか」という問いは、中小企業は大企業ほど新卒者の採用に熱心ではない、言い換えると、採用数100名に占める新卒者の割合は中小企業の方が少ないという仮説として解釈するほうが適切であろう。

実際、白書のグラフが依拠する「雇用管理調査」の数値は、新卒者を1人でも採用内定した企業の割合であり、この数値は、
全数に占める1人でも採用した企業の割合×採用者の中に新卒者を含む企業の割合
という積に分解できるから、採用者の中に新卒者を含む企業の割合が仮に企業規模に対して一定であっても、小規模企業ほど採用実施率が低ければ、積の数値は低くなってしまう。つまり、新卒者採用への性向が企業規模によらず一定であっても、採用活動自体の実施率が小企業ほど低ければ、新卒者採用があった中小企業の割合は低くなる。要するに、白書が利用している数値には、採用活動の活発さと新卒者採用への性向という二つの異なる因子が混在しているので、白書が実証したい仮説への根拠としては不適切だということになる。