従業員数50人以上かつ資本金3000万円以上の群を用いた分析に「中小企業」と冠するのは不適切ではないか。

趣旨

偏ったサンプルだけから得られた結果を用いているのに、そのことに十分な注意を喚起しないのは、誤読を招くので良くない。

本文

中企庁が作った「中小小売業・サービス業及び商店街の現状について」という資料がある(「新たな商店街政策の在り方検討会」第1回資料)。
この中に、中小サービス業、中小小売業の労働生産性に関するページがある(pp.10-11)。
これは2016年版中小企業白書の第1部第3章第2節を引用したものだ。
その本文にはこうある。

以下では「企業活動基本調査」の個票を用い、企業の生産性が業種別にどのように分布しているのか、更に詳細な分析を行う。経済産業省が毎年実施している「企業活動基本調査」は従業員50人以上かつ、資本金又は出資金3,000万円以上の企業を対象としているという特徴があるため、これ未満の規模に属する企業が対象とならない点に留意が必要だが、

「中小企業」の大部分を切り捨てた分析になることへの注意を喚起している(もっとしっかり書いた方がいいと思うが)。
そこで、白書が利用している「平成26年企業活動基本調査」から「従業員数50人以上かつ資本金3000万円以上」のサービス業と小売業を見てみる。
「中小小売業」は、従業員数50人以下または資本金5000万円以下であるから、同「基本調査」では「資本金5000万円未満」の企業数を見ればおよそ用は足せるだろう。その数は955。同じ白書の付属統計表によれば、中小小売業の企業数は668,194社である。そのおよそ3分2は従業員数4人以下のはずである。
サービス業についても同じ問題を指摘できる。(面倒なので統計表には当たっていない。)
企業・事業所単位での生産性分析は有意義である。しかし、ある程度規模が大きな企業等でなければデータを得られないという問題がある。従ってこの推計のやむを得なさは理解できる。しかし、せめて、この偏ったサンプルの分析結果に対して「中小小売業」等を一般化した形のタイトルを付けるのは止めた方がいい。せめて、「大規模中小企業」や(誤解される恐れもあるが)「中堅企業」などと書く方が良いのではないか。

まとめ

「企業活動基本調査」の対象は従業員数50人以上かつ資本金3000万円以上の企業である。
中小企業基本法上の「中小企業」において、従業員数50人以上かつ資本金3000万円以上の群は、企業規模がかなり大きい方であり、「中小企業」の中で少数である。
特に、この文書の主たる関心は商業やサービス業であり、それらの「中小企業」のなかでは、これらのカテゴリの属する企業は更に限られた存在となる。
したがって、「中小企業」の研究で「企業活動基本調査」を使うときは、十分に慎重であるべきである。とくに、「中小企業」のなかで最大規模に属する、きわめて限られたサンプルで分析を行っているのに、それを、十分な注意喚起なしに「中小企業」全体の特徴であるかのように記述するべきではない。