NRIの金融資産保有推計について

日本の富裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円 | 野村総合研究所(NRI) https://www.nri.com/jp/news/2014/141118.aspx
PDF版 https://www.nri.com/~/media/PDF/jp/news/2014/141118.pdf

こちらの記事で紹介されている。
アベノミクスで恩恵を受けたのは…"富裕層"と"超富裕層"が100万世帯超える | マイナビニュース http://news.mynavi.jp/news/2014/11/18/308/

上記によれば、

  1. 2011年に比べて2013年は富裕層および超富裕層の資産額が大きく増えた。

その理由として、

  1. これらの層は保有する金融資産に占める株式や投信の比率が高いこと
  2. 安倍政権(2012年12月発足)下の経済政策(いわゆるアベノミクス)による株価上昇

が考えられるとしている。

これに対して、アベノミクスが金持ち優遇で貧困層を犠牲にすることの証拠だという反発がある。
だが、この推計表ではそれは分からないだろう。最下層の「マス層」でも純金融資産が3000万円未満であって、この中ですら生活にゆとりを持てる世帯が多く含まれている。アベノミクスが低所得層を犠牲にするものであったとしても、それはこの「マス層」の内部の限られた動きにとどまり、「マス層」全体の変化としては現れないかもしれない。
実際、「マス層」はNRI推計世帯数の約8割を占めているから、この層が経済的弱者を代表していると見なすのは難がある。アベノミクス貧困層を犠牲にしているかどうかを見るには、この層をさらに細かく分類して資産保有が僅少な層の動きまで分かるようにしなければならないだろう。

NRIの推計結果について

世帯の捕捉率が気になる。特に調査年によって捕捉率が上下していて年ごとの比較、推移の解釈が困難なように見える。
世帯数の推計は、各種の統計調査によってかなり異なる。NRIの世帯数は、国勢調査住民基本台帳に基づく世帯数と比較して100万世帯から200万世帯、数%のギャップがある。これはNRI発表の「超富裕層」や「富裕層」の世帯数の数倍、「準富裕層」の世帯数に匹敵する。従って、資産保有額の分布が年ごとにどう変化しているかをNRI推計に基づいて解釈すると実態から乖離するかもしれない。

全国の世帯数を見られるのは、

  1. 国勢調査→例えば総務省統計局「日本の統計」第2章2-9表「家族類型別一般世帯数」http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm
  2. 国民生活基礎調査厚労省「平成25年国民生活基礎調査の概要」の「世帯数と世帯人員数の状況」http://w資料:ww.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/index.html
  3. 総務省住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」→総務省住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成26年1月1日現在) http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei02_02000062.html

資料:報道発表資料2「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成26年1月1日現在)」

国勢調査は5年刻みだからNRIの推計との照合は部分的にしかできない。国勢調査が示す世帯数はNRIの推計とおよそ合っていたりずれていたりする。
国民生活基礎調査は3年刻みでNRIの推計との照合は部分的にしかできない。こちらの推計は国勢調査に比べるとかなり少ない。(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/02.pdf
総務省住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」は毎年公表されている。
なお、総務省「人口推計」には世帯数はない。

※国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集2014年版」の表・図一覧に世帯数の上記調査結果が掲載されている。http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2014.asp?chap=7&title1=%87Z%81D%90%A2%81%40%91%D1
※なお、総務省住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によれば、外国人世帯が約100万世帯あるとされる。

最後に、NRIの推計から構成比を出しておく。

金融資産(構成比)
階層2000200320052007200920112013
超富裕層4.1 3.6 4.0 5.5 4.2 3.9 5.7
富裕層12.3 11.8 14.5 16.1 13.9 12.7 13.1
準富裕層15.9 15.1 15.8 16.6 16.7 17.2 18.8
アッパーマス層19.3 20.3 21.3 21.7 20.8 22.3 20.5
マス層48.3 49.1 44.4 40.1 44.4 43.9 41.9
合計100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

世帯数(構成比)
階層2000200320052007200920112013
超富裕層0.14 0.12 0.11 0.12 0.10 0.10 0.10
富裕層1.6 1.5 1.7 1.7 1.6 1.5 1.8
準富裕層5.5 5.1 5.7 5.5 5.4 5.3 6.0
アッパーマス層12.3 12.7 14.3 13.3 12.8 12.7 12.4
マス層80.4 80.6 78.2 79.4 80.2 80.4 79.7
合計100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0