京大、教授会議事録を閲覧制限 学部史編集委員の教授に 「隠蔽体質が背景」と教授|社会|地域のニュース|京都新聞(2020年3月15日 10:00)
京都大教育学研究科の教授らが教育学部70年史を編纂(へんさん)する際、教授会議事録の閲覧を大幅に制限されていたことが14日、京都新聞社の取材で分かった。編集委員の教授らは議事録の保管場所に入れず、事前に必要な資料を指定した上で事務方から公開を受けた。編集に当たった教授は「事実上、閲覧できなかった。教授がなぜ教授会議事録を自由に見られないのか」と困惑する。事務担当者は「必要に応じ適切に教員へ議事録を開示した」とする。
「資料に見る京都大学教育学部の70年」は、教育学部の創設70年に合わせて2019年5月に発行。編集開始時は、同研究科の駒込武教授や南部広孝教授ら4人でつくる編集委員会が作業に当たった。
両教授によると当初は議事録の保管場所へ入れたが18年7月になって、事務担当者らから入室しないよう言われた。その後、70年史編集ではできるだけ公表された資料を用い、資料の裏付けなどでどうしても議事録が必要な場合だけ職員が持ち出すと通告されたという。委員長だった駒込教授は抗議して同委員会を退き、委員長は南部教授に代わった。
駒込教授は「人事などデリケートな情報があるのは分かる。しかし学生運動に関する特定の教授会議事録を要求しても公開されなかった」と指摘。「不都合な事実を明らかにしたくないという隠蔽(いんぺい)体質が背景にある」と批判する。
南部教授も「歴史を明らかにするために、議事録など1次資料に当たることは重要」と強調する。既に公開されている情報の裏付けで議事録を用いることは非合理的とし、事務方の対応に疑問を投げ掛ける。
京大の法人文書に関する内部規定では、同研究科の文書管理者は研究科長が務め事務方が補佐に当たる。事務担当者は「教授会の議事録は、教授であっても全て自由に閲覧してもらうことはできない。文書を預かっている事務方が必要と判断した議事録は全て公開した」と述べた。研究科長は多忙などを理由に取材に応じなかった。
京大の歴史に関する文書の保存・管理を担う京大大学文書館の西山伸教授は「大学教職員が職務上必要な場合は、移管された公文書を自由に閲覧できるというのが文書館での運用の在り方」と説明。「70年史を作成するために教員が教授会議事録を閲覧する立場は妥当と思われる。沿革史を作る上で1次資料に当たるのは当然。閲覧制限が設けられていたならば疑問の残る対応だ」と話している。■「公文書隠し」学問の府でも
教授会議事録という公文書の閲覧が京都大で恣意(しい)的に運用されている実態が明らかになった。安倍晋三政権下では、首相主催の「桜を見る会」や南スーダンなどへ派遣した自衛隊の日報隠蔽など公文書をないがしろにする事例が多発している。「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と法律で規定された公文書の扱いを巡る危機は、政権だけでなく学問の府にも及んでいる。
京大教育学研究科によると、教授会議事録は月1回ほど開かれる教授会の議論を記録している。議事録などの法人文書の扱いで京大内部の規定はあるが、具体的な公開範囲や閲覧可能な立場などについて詳細には定められていない。編集に当たった南部広孝教授は「これまで議事録の扱いをちゃんと議論してこなかったのが問題」と指摘する。
一方、京都新聞社が約50年をさかのぼって一部の教授会議事録の情報開示を請求したところ、人事に関わる個人名などは黒塗りになっていたが、議論の流れが一定程度は分かる形で開示された。同科の事務担当者は「教員に対して開示する情報が、外部からの情報公開請求で開示する情報を下回ることはない」とするが、それならば編集委員の教授らにも同じような形で一斉に開示できたはずだ。同科の公文書の扱いが一貫性を欠いていることの表れと言える。
国立大学法人である京大の教授会議事録の閲覧が必要になるケースは、教授にとっても多くはないだろう。しかしその陰に隠れて、恣意的な運用がまかり通っているのだとすれば学問の危機であり、社会全体の言論の基盤を揺るがす事態になりかねない。
議事録は実務的に後で役立つことがしばしばあるし、大学公認の仕事の一環での閲覧だし、手続きも踏んでいて毀損の恐れもないだろうに、なぜだったんだろう。事務方が「教授でも全て自由に閲覧はできない。必要と判断した議事録は全て公開した」とするのは、かなり強硬だしあまり合理性がないと思うが。