郷土の商品化と後退戦

経済観測:交流人口から関係人口へ=ローカルファースト研究所代表取締役・関幸子 - 毎日新聞(2020年2月26日 東京朝刊)

 地方創生の取り組みは、今年から第2期を迎える。地方の自治体では定住人口の増加を試みてきたが、2019年の統計では、東京、埼玉、千葉、神奈川のいわゆる東京圏への転入超過が約14万8000人となり、東京への一極集中には歯止めがかかっていない。

 さらに、この年の国内出生数は86万4000人。人口減少はさらに厳しくなり、定住人口の奪い合いによる地方創生が曲がり角に来ている。

 こうした現状の中で、「関係人口」に注目が集まっている。少し前までは、観光による交流人口への期待が大きかったが、最近では、地域にさらに深く関わってくれる関係人口を増やそうとする試みが各地で動き出している。関係人口の明確な定義はないが、その地域が好きで通ってきてくれる人、週末だけ住む2地域居住の人、ボランティアに応募してくれた人などを指す。最近では、テレワークの導入によって、好きな場所で働こうという人たちもこの関係人口予備軍と言えるだろう。

 ライフスタイルの多様化もあり、自分の夢や理想を実現させたいと思う人々が増え、実践の場を探している。重要なことは、こうしたその地域に関わりたいと思う人が、住民と一緒になってさまざまな事業を実践できる条件を整え、まちづくりや地域の活性化につなげていくことにある。

 関係人口の増加のきっかけとなるのは、拡散力が強いSNS(ネット交流サービス)やサイトなどの電子媒体であるが、大切なことは、地域住民が外から来た人との交流を通じて信頼を築き、居場所がここにあり、再度訪問したくなる気持ちになってもらうことにある。やはり、人は「人」に会いに行きたいのだ。筆者も行きたいと思う場所には、待っていてくれる多くの笑顔が浮かぶ。

一人の人が持てる「関係」には上限があるから、「関係人口」増加の取り組みは必然的に地域間の「関係」資源の取り合いになる。
レジャーの時代に始まりネットとスマホの時代になって、競争は消費者の消費可能時間の奪い合いの様相をますます強めている。
「関係人口」は、定住人口の維持回復に失敗し、人口概念を「交流人口」に拡大して過疎対策と地域活性化を正当化しようとしたものの、そこでも後退を余儀なくされた末に出てきたさらなる拡大概念であろう。そして「交流人口」の増加策も消費者の時間資源や関係資源の奪い合いを招く以上、「関係人口」増加策も、全国的に見れば「交流人口」増加策と類似の帰結に早晩至ることは間違いないであろう。
「交流人口」にせよ「関係人口」にせよ、広い意味で捉えれば、「地方」=田園=都市住民にとってのある種のユートピアだという、200年ぐらい前からのおなじみの都市住民からの「地方」観の枠内にある。都市住民たる中央省庁の官僚や評論家、学者が「地方」をそのようなものとしてしか捉えられないのはもの悲しくもやむを得ないところもあるが、もっと悲しいのは、「地方」の今後を担う自治体や地域活性化団体、地場企業などの経営者らも、この「都市民にとってのユートピア」観にすがる以外の方策を思いつけないということであろう。