「新国富指標」(Inclusive Wealth Index)に関する記事

「豊かさ」人口増に生かせ 新国富指標 九州7県全市町村算出|【西日本新聞ニュース】(2018/3/26 15:48)

鳥栖市や久山町など将来有望

 自然や住民の健康レベルなどを地域の資産と捉えて数値化した経済指標「新国富指標」を研究している九州大都市研究センターは、九州・沖縄全274市町村の指標を初めてまとめ、人口動態と併せて分析した。人口が増加もしくは横ばいで推移している場合、住民1人当たりの新国富指標が大きいほど地域の持続可能性が高いと考えられ、こうした自治体の上位に鹿児島県十島村佐賀県鳥栖市、福岡県久山町などがランクした。

 新国富指標は(1)人工資本(道路や工場)(2)人的資本(出生・死亡率や就学年数、労働生産性)(3)自然資本(森林や農地面積、漁獲量)を中心に、地域の資産を金額で示す。国内総生産(GDP)だけでは把握できない豊かさの測定手法として注目され、久山町が新国富を増やすための全世帯アンケートを実施。熊本県水俣市が総合計画に新国富を反映させる方針を打ち出すなど、政策立案への活用が進んでいる。

 同センターは今回、2015年の各種統計に基づき、市町村の新国富の金額を算出した。ただし住民1人当たりの金額は人口減少が進むほど大きくなる傾向があるため、10年から15年の人口変化と併せて地域の持続可能性を探った。

 それによると、人口が増加もしくは横ばいで推移している市町村の1人当たり新国富は、鹿児島県十島村が3596万円でトップになった。2位は佐賀県鳥栖市(3457万円)、3位は福岡県久山町(3435万円)。こうした市町村は新国富に「余力」があり、人口が増えても豊かさを維持できる可能性が高い。

 人口減少地域も含めた1人当たりの新国富では、長崎県対馬市が5518万円でトップ。鹿児島県長島町(5287万円)、大分県姫島村(5046万円)と続き、5千万円超の3市町村を離島が占めた。いずれも人口減に歯止めがかかっていないが、新国富の大きさを生かした施策の展開次第では、移住者を増やした十島村のように人口増に転じる余地がありそうだ。

 一方、1人当たりの新国富が最も小さいのは福岡県糸田町の1317万円で、対馬市とは4倍の開きがあった。次に小さいのは同県桂川町岡垣町で、ともに1517万円。人口は糸田、桂川両町が減少、岡垣町が横ばいだが、いずれも新国富の小ささが人口増を制約する要因になっている可能性があるという。

 九州3政令市の1人当たり新国富は、福岡市2401万円、北九州市2147万円、熊本市2187万円。九州7県都では最大が佐賀市の3286万円、最小が熊本市だった。

 同センター長の馬奈木俊介主幹教授は「新国富の小さい市町村は豊かさを高め、人口減を食い止めることが必要だ。予算配分や施策の優先順位を考える際、指標を参考にしてほしい」としている。

=2018/03/26付 西日本新聞朝刊=

掲載図1:人口が増加か横ばいの市町村の1人当たり新国富指標上位魚拓
掲載図2:九州7県の市町村別1人当たり新国富指標(2015年、単位・万円魚拓


久山町:新国富指標を導入 九大と協定、町民の満足度高める予算化へ 自然、健康など地域の価値数値化 /福岡 - 毎日新聞(2017年12月9日 福岡県地方版)

 久山町は8日、九州大都市研究センターと、成長の持続可能性を評価する新しい国際的な指標「新国富指標」を活用したまちづくりに取り組む協定に調印した。全世帯アンケートを実施中で、結果を基に新指標を活用し、来年度予算に反映する考え。新指標を実際の予算化に取り入れる自治体は全国初という。

 新国富指標は、従来の国内総生産(GDP)だけでは測れない自然環境や住民の健康、教育レベルなど地域の持つ独自の価値を評価し、科学的な分析で金額に数値化する。2015年に国連が策定した「持続可能な開発目標」で着目され、国内で馬奈木俊介センター長らが提唱している。

 町は、九大と町民を対象にした生活習慣病予防の疫学調査を半世紀以上にわたって継続。福岡都市圏の利便性を生かした施策とともに健康増進や教育の充実、自然環境を生かしたまちりづくりに力を入れている。

 センターが県内60市町村を新指標で分析したところ、1人当たり「新国富」は久山町が3100万円でトップ。これを知った町が、長所や強みを更に伸ばして将来のまちづくりに生かそうと、センターに協力を依頼した。

 久芳菊司町長は「これまでの施策が新国富指標で数値化され、高い評価を得た。少子高齢化が進む中、九大の協力を得て町民の満足度を高める予算化の判断に生かしたい」。馬奈木センター長は「久山町の取り組みが今後の地方創生のモデルとして、他の自治体にも広がれば」と述べた。【前田敏郎】