嵐コンサートの経済効果(宮城県の試算)

「嵐」コンサート、地方を潤す 熱烈ファンの経済効果  :日本経済新聞(2016/1/8 3:30)

 年末年始のテレビで5人組アイドル、嵐の姿を見ない日はなかったといっていい。人気タレントを多数抱えるジャニーズ事務所(東京・港)でも筆頭格の売れっ子で、コンサートは年間80万人以上を動員する。嵐が赴く所、熱烈なファンが押し寄せ、開催地の宿泊業や飲食業にもたらす経済効果は年々膨らんでいる。その「嵐特需」のインパクトを探るべく、現場を“追っかけ”てみた。

■会場周辺は「音漏れ鑑賞」も

 2015年12月26日、東京ドームは5万5000人の熱気に満たされていた。「ARASHI LIVE TOUR 2015 Japonism」には学生から子供連れの20代夫婦、中高年まで幅広い観客が集まっていた。コンピューター制御されたペンライトとレーザー光で色鮮やかに演出され、巨大スクリーンを駆使したステージは美しく、楽しい。スマートフォンスマホ)で舞台を撮影する観客もほとんどおらず、行儀の良さが目立つ。

 なぜか会場周辺では、カフェが軒並み満席。チケットがとれず、会場からの音漏れを聴く「音漏れ鑑賞」に地方などから足を運んだ人たちが開演まで待機していたのだ。観客に嵐の魅力を聞くと、大量のグッズを大事そうに抱えながら熱く語ってくれた。そこからは、嵐に対して「一緒に頑張る仲間」といった親しみを抱くファン像が浮かんできた。

 ファン歴7年の看護師(41)は「アイドルを演じているのではなく、“頑張っている感”がある。5人の仲の良さとチームワークに元気をもらう」と語る。証券会社の女性社員(32)も「2年前に初めてコンサートに行ってハマった。合間のメンバー一人ひとりのあいさつからもファンを大事にする姿勢が、他のアーティストと違うなと感じた」と話す。

 嵐は16年前のデビュー当時、ほとんど鳴かず飛ばずだった。メンバーのマツジュンこと松本潤さんが出演し、嵐の歌が使われたテレビドラマ「花より男子」(05年、07年)で人気に火が付いたといわれる。売れるまでの間、メンバーはこまめにファンと触れあうイベントを積み重ねた。その成果が「仲間意識」となって、多くのファンの心をつかむ。

 ファンクラブの会員数は非公表だが、業界では約180万人といわれる。ただ、実際のファンの数とイコールではないようだ。07年に入会した情報技術(IT)関連会社に勤める女性(47)は地方公演の渡航費やグッズ、CDに「100万円以上は使った」といい、「ファンクラブには妹や母親など7人の名義で入会している」と明かす。クラブとしては本来、許しがたい行為だが、年会費4000円を7人分負担しても惜しくないという。なぜだろうか。

 理由は「ライブに行きたいから」。というのも嵐のコンサートチケット(8500円)は事実上ファンクラブ会員でなければ入手できないとされる。それも抽選でふるいにかけられる。毎年11〜12月に開かれる全国ツアーの日程は、6月ごろに発表される。会員は各地の会場を第3希望まで応募できる。その当選確率を上げようと、複数の会員名義で申し込むファンは少なくないのだ。

■プラチナチケットを片手に全国を移動

 15年11〜12月に札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の五大都市で開かれた「Japonism」は計17回。札幌が3日間で15万人、東京は4日間で22万人を集めたが、いずれも競争率は高い。札幌市在住の女性(36)は「5年ぶりに福岡が当たった。東京ドームがいいけど場所を選んでいられない」と語る。

 こうして全国の熱烈なファンたちが、ようやく当たったプラチナチケットを片手に各地へ大移動する。時間をかけて築いた強固なファン層と、全国五大都市の大型会場での開催という組み合わせの妙が生む現象だ。人気アイドルの中でも、これだけ多数のファンが広域を移動する例は珍しいという。ファンの間では「航空券代や宿泊費のかかる札幌は若い人が行きにくく当たりやすい」(百貨店勤務、48)といった情報まで飛び交う。

 大移動ゆえに熱を帯びるのが宿泊先の確保だ。ツアー発表と同時に争奪戦が始まる。チケットの当落は申し込んで2カ月ほど過ぎないと分からない。都内の大学院生(24)は「とりあえずチケットを申し込んだ開催地でホテルを探す。ホテルは直前までキャンセル料がかからないから、チケットが手に入るかもしれないギリギリまでキープする」と明かす。

 この女性ファンは運良く4年連続で札幌のチケットを入手できたが、「開催日前後の航空券とホテル予約は嵐ファンの注文で瞬時に売り切れる。日程発表と同時に動けるかが勝負」と気の抜けない様子だ。飲食店も予約は欠かせない。「以前、コンサートの後にススキノのジンギスカン店に行ったら、どの店も嵐ファンで埋め尽くされたのか3時間待ち。さすがに懲りた」という。飲食店側は「閑散期の11月に道外から集客できる」(札幌市のサッポロビール園)と歓迎する。

 ホテルもファンの動向に敏感だ。「開催時期は周辺のホテルの空き部屋が消えてしまうほど嵐効果は別格。09年の結成10周年あたりから急速に予約スピードが上がった」とアパホテル(東京・港)の村田紘嗣・統括ITスーパーバイザーは証言する。同社はツアー発表時から嵐ファンが集う交流サイトをみて、ファンがどう動くか分析。15年12月17〜19日の福岡公演では福岡の計300室がほとんど嵐ファンで埋まった。「チケット当落が分かるといったん半分ほどキャンセルが出る。ただ、ホテルを確保できなかったファンで再び埋まる」

■転売防止に顔認証システムも導入

 京王プラザホテル札幌は、開催日程が決まった翌日にはファンの予約で満室になるため、宿泊予約をストップする。抽選に外れても部屋をキャンセルせず、チケットを入手できたファンに譲るケースもあるようだ。そして3世代で楽しむファンの宿泊が多いという。

 話題になったのは15年9月、宮城県利府町のスタジアムで開かれた復興支援コンサートだろう。開催発表と同時にあらゆる宿泊施設に予約が殺到、あるホテルは重複予約を受け付けてしまい謝罪に追い込まれた。「交通手段が少なく、レンタカーや駐車場の予約も大変だった」(40代のファン)。過熱しすぎたのか、通常5000円以下のビジネスホテルの客室が牛タンカレーや宮城米を付けて1泊5万円で売られ、1日1万円で自宅の土地を駐車場に貸すような現象もあったという。4日間の公演の経済効果は90億円超とされたが、「一部の人が商業主義に走り、復興支援の趣旨とずれた」と残念がるファンもいる。

 ジャニーズ事務所では、今後もコンサートの開催パターンを変更するつもりはないという。平日であれば18時開演、21時ごろの終了と終電で帰りやすい時間を設定している。公演数も現状が「いいあんばい」で、大幅に増やすのは難しいという。ただ、ファンを守るべく様々な手を打っている。例えば不当にチケットの価格をつり上げる転売の防止だ。事前に転売されたと分かった席は無効にして、再販売する。15年のツアーからは一部座席に顔認証システムも導入した。

 嵐は15年にオリコンの音楽ソフト売り上げで143億円と、5度目の1位を獲得。単独アーティストとして初めて4年連続で5大ドームツアーに成功した。ファンの年齢層と地域性という「広さ」のかけ算が、コンサートの動員数を押し上げる。全国ツアーが開催地を潤し、地元に新たなファンを生む、というプラスの循環が今後も続きそうだ。

(企業報道部次長 松本和佳)

「4日間の公演の経済効果は90億円超」とのことだが、この計算をしたのは宮城県らしい。検索すると、ちょっとした話題になっていたようだ。

で、宮城県のウェブサイト上で試算方法を公表しているかと思ったら、そうでもないようだ。
見つかったのは以下。

宮城県知事記者会見(平成27年5月11日) - 宮城県公式ウェブサイト

復興支援コンサート「ARASHI BLAST in Miyagi」の開催について

■ 村井知事
 それでは、まず第1点目、復興支援コンサート「ARASHI BLAST in Miyagi」に関してであります。
 既に去る4月30日に主催者側から発表がございましたが、9月19日から23日までの5連休のうち4日間、ひとめぼれスタジアムを会場にジャニーズ事務所所属のアーティスト「嵐」の復興支援コンサートの開催が決定されましたので、ご報告申し上げます。
 震災後、嵐の皆さまからは本県の観光や教育のために多くのご寄附をいただいたご縁もございまして、震災から5年目の節目に当たり、被災地に笑顔と元気を与えてほしいということで、私からコンサートの開催を打診し、今回の開催決定に至ったものであります。嵐の皆さまも、以前から被災地の復興に貢献したいとの思いがあったということで、県としては、その思いにしっかりと応え、復興支援につながるイベントとなるよう協力してまいりたいと考えております。
 タイトルのBLASTには、「にぎやかなひととき」や「パーティー」という意味が込められているということでありますが、今回のコンサートには4日間で約20万人もの来場者が見込まれており、本県経済にも大きな波及効果が期待できるだけではなく、震災後、多くの温かい支援をいただいた全国の皆さまに、復興に取り組む宮城の姿を発信する貴重な機会になるものと考えております。具体的な企画の内容につきましては、今後、主催者側と十分に協議の上、準備を進めてまいりたいと考えておりますが、例えば特産品の販売などをはじめ、被災地の産業振興などに貢献していただけるものにしてまいりたいと考えております。
 なお、コンサートの詳細につきましては、今後、主催者側の発表をお待ちいただきたいと思います。
 復興支援コンサートについては以上でございます。
次に、2点目でございます。市町村のプレミアム付き商品券の販売についてであります。市町村の事業でありますけれども、ぜひマスコミの皆さまに取り上げていただきたいという市町村からの強いご要望もありましたので、発表させていただきます。
 国の地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金を活用して県内34の市町村で発売が予定されておりますプレミアム付き商品券につきましては、多賀城市及び七ヶ浜町において去る4月20日に発売された「たがもん・ボーちゃん商品券」を皮切りに、今後、続々と販売される予定となっております。この件につきましては、随時、投げ込み等により情報提供させていただきますので、報道各社の皆さまにおかれましてもPRにご協力をお願いいたします。
 なお、各市町村の発売開始日や販売場所等につきましては、地域復興支援課のホームページに掲載しておりますので、ご確認いただければと思います。
 私からは以上でございます。

◆Q
 なぜ、復興支援コンサートということで、アーティストとして嵐の皆さんに開催を打診したのか。

■村井知事
 先ほど申し上げましたけれども、嵐の皆さんは、震災後からたびたび自分の時間を使って宮城にお入りいただき、いろいろな形でご支援を頂いておりました。ジャニーズの皆さまには応援をいただいているのですけれども、その中で特に嵐の皆さまは大変人気の高いグループでございまして、国民的なアイドル、しかも若い人だけではなくて、老若男女あらゆる方から非常に好感を持たれているグループであります。さらに復興を後押ししていただくに最もふさわしいグループだと思ってお願いをいたしました。今国内でほとんどコンサートをされない、できないほどお忙しいグループでございますが、特に宮城でコンサートをしてもいいということでありまして、期待をしているところであります。

◆Q
 まさにこの4日間を被災地の復興のためだけに充てていただいたということか。

■村井知事
 そうですね。中日1日、休みの日もございますから、5日間拘束することになるということですね。

◆Q
 例えば、その場に被災者を招待するということはあるか。

■村井知事
 それはこれから主催者の皆さまと打ち合わせをしていく中で決めていくことになろうと思いますが、発表は主催者の皆さまからしていただくことになると思います。少なくとも会場の外でいろいろな物産は販売していいということになっておりますので、これからどういったようなものを販売するのか、計画をしてまいりたいと思います。そちら側は宮城県に既にボールは投げられておりますので、県の責任でしっかりと対応してまいりたいと思っております。

◆Q
コンサートの共催が宮城県とあるが、収益の一部は県に入ることになるのか。

■村井知事
 当然、巡り巡って税収という形で入ってきますけれども、やはり会場の利用料等は県には直接は入ってまいりません。ただ、物産の販売等も協力をしていただけるということでございましたので、そういった意味では間接的には大変大きな効果があろうかと思います。非常に粗い試算でありますけれども、経済効果を試算いたしましたところ、公演の入場料、交通費、飲食費やグッズ販売等による直接効果が約57億円。それから、直接効果から生じる各産業への波及効果、1次産業、2次産業への波及効果ですが、それが約36億円ということで、この4日間だけで93億円の経済効果が見込まれるのではないかと考えております。既に仙台市内のホテルは、この5日間、全て埋まってしまいましたし、松島あたりまでもう完全に埋まっているというような情報は入っております。

◆Q
 知事がいつごろから打診していたのか。それから、知事のこのコンサートへの関わり方について、出演なども含めて伺う。

■村井知事
 いろいろ調整を始めたのは年明け後です。残念ながら私も歌いたいんですけれども、歌わせてもらえないと思うので、出演はないです。

経済効果の算出に関連するのは以下の部分。

・会場の利用料等は県には直接は入ってこない
・公演の入場料、交通費、飲食費やグッズ販売等による直接効果が約57億円
・1次産業、2次産業への波及効果が約36億円

とのこと。
コンサートに伴う需要増分の見積もりがカギなので、この計算結果のみを見てどうこう言うことはできないが、いくつかの疑問が。

1.入場料、グッズの売上は県内に落ちるのか。交通費はJRや航空会社等、他県業者への支出とどう峻別しているか。
2.「1次産業、2次産業への波及効果」と言っているが、間接効果の第1次と第2次の間違いではないか。そうでなければ、なぜ第3次産業を省いたのか(というか、省くことはナンセンスだと思うけれど)。

知事が適当にしゃべっただけなのかもしれないが、どうも眉唾感を否めないのであった。