2023年7月に拾った大学ハラスメント事案の報道など

学生に何度パワハラを繰り返しても解雇されないのが大学教員という身分 2022-03-05
https://yuri-donovic.hatenablog.com/entry/2022/03/05/040926

1年半ほど前に上記の記事を書いた。神戸大学の事案だった。その同じ神戸大学の別の事案が報道されていた。

教員の懲戒処分について | 国立大学法人 神戸大学 (Kobe University)
https://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/info/2023_07_14_02.html

2023年07月14日
神戸大学は、教員(男性、30歳台)に対し、女子学生へのセクシュアル・ハラスメントと認められる行為があったため、令和5年6月23日付けで、懲戒解雇処分を行いました。
※被害者への配慮が必要とされる事案であるため、詳細の公表は差し控えさせていただきます。

神戸大学の30代の男性教員がセクハラで懲戒解雇 女子学生にハラスメント行為 /兵庫(サンテレビ) - Yahoo!ニュース
7/14(金) 15:34配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/d9492d9813974a3f353eed6e5b87cd4bd830f10e
これによれば、
・女子学生が2022年5月、大学に教員のハラスメントを相談したことから発覚
神戸大学の教員がセクハラで懲戒解雇されるのは、近年、ないということ
という話。

以前書いた記事の教員は結構なハラスメントをしていたようだがそれでも停職1カ月で済ませた神戸大学で、なんと懲戒解雇。ということは、立件されたら重罪が明白なほどひどかったのだろうか。
被害者への配慮を理由に不公表としているが、認定事実と“量刑”判断基準は知りたいところ。裁判例が積み重なって「相場」が作られるように、各学校の処分も判例として共有できるといいのだが。
金融機関や信販業界が債務者情報を共有しているわけだし、学校も似たことは可能じゃなかろうか。

次は日本大学の公表事案

教職員に対する懲戒処分について(2023.7.13)
https://www.nihon-u.ac.jp/information/2023/07/13997/

本学は、令和5年7月7日付けで、以下のとおり懲戒処分を決定いたしました。
・不正に本学の金員を取得した本学職員1名の懲戒解雇、関連して職務上の義務違反があった本学職員1名の減給、本学職員1名のけん責
・学生に対する不適切な行為、物品の調達先に対する不誠実な行為及び本学諸規定に違背する行為等があった本学教員1名の懲戒解雇
・学生に対して、セクシュアル・ハラスメント行為があった本学教員1名の停職
・職員に対して、セクシュアル・ハラスメント行為があった本学教員1名の停職

こちらも状況は全然分からない。どれぐらいのことでどれぐらいの処分をしたのかが大事なんだけれど。

教員に対する措置 – 早稲田大学(Mon, 03 Jul 2023)
https://www.waseda.jp/top/news/91678

6月30日付で、理工学術院・情報生産システム研究科(北九州市所在)所属の男性教員1名(50歳代)を停職3ヵ月の懲戒処分といたしました。

1.理由

2021年3月から2022年7月までの期間に、複数の学生に対して、人格を否定するような発言や、停学になる現実的な可能性があるとの不安を不必要に与える言動をする、といった、教育上不適切な言動により精神的苦痛を与え、研究意欲および研究環境を著しく阻害する結果となるアカデミック・ハラスメント行為を行っていたこと。

2.根拠規定

教員の表彰および懲戒に関する規程 第5条第1項第6号

早稲田の理工学術院・情報生産システム研究科は北九州にあるのね。
・1年半(たぶん、本当はもっと長いだろう)
・複数の学生を対象(申し立てなかった学生はいるだろう)
で、停職3ヶ月。

停職中は無給ではあるが、大学教員にはサバティカルのようなもの。
研究室に配属される学生もいなくなるから、復帰後も研究に専念できる。
アカハラで処分されると、むしろ仕事をしやすくなる。
で、業績を上げて他大学に移りやすくなる。他大学は大迷惑、また新たな犠牲者が。

まあハラスメント認定は、ときに冤罪のようなものもあり得るので「加害者」認定された人の権利保護も考えるべきではあるけれど、やっぱり実名公表した方がいいような気がするなあ……。
いずれにせよ、ハラスメントの認定と処分の過程が闇の中、大抵は学校内の素人さんが業務の合間に「調査」して、弁護士さんなどがいればちょっと助言をもらって箔を付けてという感じ、各学校の経験は共有も蓄積もされず……。

昔の任侠の世界なら破門されたら組から回状が回ったというけれど、大学教員だとコネと噂に頼るしかないから、開拓時代のアメリカのお尋ね者みたいに、知らない街まで逃げるという手があるんだよね。どこかでやらかしても、それなりの業績と模擬授業の腕があれば、うっかり拾ってくれる学校があったりするし、学会も大小たくさんあるからね。

アカハラ処分教員が学会役員に 「ありえない」の声、学会どうする?:朝日新聞デジタル
2023年6月24日 9時30分
https://digital.asahi.com/articles/ASR6R7527R5JUTIL01V.html
2023年
3月 都内の所属大学でアカハラ認定(院生3人に)→停職2ヶ月
4月 文学系学会の東京支部支部長に再任
   同月末、大学が匿名で処分を公表。
   学会員から問題視する声。学会にハラスメント対応規程なく対応模索中。
   当人は現在「一身上の都合」として支部長の仕事を自粛中

ハラスメント問題に詳しい広島大ハラスメント相談室の北仲千里准教授によると、会員から相談があれば、学会で同じ分科会にならないようにするなど、配慮するケースはある。また、学会内に相談窓口をつくったり、調査ができる委員を置いたりして、学会の活動で起きたハラスメントについて対応している学会もある。
 しかし、所属大学での処分については、発表がなければ、処分の有無を学会が把握すること自体が難しい。また、発表されても、匿名であることが多い。実名で公表されていない処分を理由に、総会のような議事録に残る場で、理事会など学会の運営側から、公式に活動辞退を要請することは、「個人情報保護の観点から難しい」と北仲准教授は言う。

ここでも、学校が詳細を明らかにしないことが問題をややこしくしている。

こうした中、日本社会学会、日本社会教育学会、日本保健医療社会学会では、ハラスメント関連処分を受けた会員は活動を自粛するよう求める規程があるとのこと。

北仲准教授は「強制力はなくても、『活動辞退を要請する』などと明文化することで、会員が安心して活動できる面はある。何かあった時に、会員がおかしいと声をあげられる環境作りにもつながる」と話す。

とのこと。
磯野真穂氏のコメントにある

加害者がすでに作り上げた人脈がセーフティネットとなり、他大学でしれっと教授に復帰する。「最近の若者は怒られなれていない」といった理由で加害者がむしろ擁護され、被害者がさらに窮地に追い込まれる

という話。特に「最近の若者は怒られなれていない」という愚痴は日常的に聞くなあ……。反面、その手の教員の側も困惑しているようなところはあるんだよね。自分自身、締め付けて脅す以外の指導を受けてきてない人もいるしね……。

大学教員のハラスメント 公表基準など初の実態調査 文科省 | NHK | セクハラ問題
2023年6月2日 14時23分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230602/k10014086871000.html

セクハラなどで懲戒処分を受ける大学教員などが後を絶たない中、文部科学省は国立大学を対象に、ハラスメントを行った教員への処分のルールや公表基準などについて初めての実態調査に乗り出しました。

とのこと。
6月1日、全国の国立大学を対象とのこと。
中等教育までは下記の取り組みが進んでいるので、範囲を広げる流れだろうか。

児童生徒等に対し性暴力等を行った教員への厳正な対応について:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00001.html

こんなのもあった。
「令和元年度文部科学省委託調査
大学におけるハラスメント対応の現状と課題に関する調査研究
~大学におけるハラスメント対応の現状と課題に関する調査研究~
調査報告書」
令和2年3月 株式会社 リベルタス・コンサルティング
https://www.mext.go.jp/content/20200915-mxt_gaigakuc3-000009913_1.pdf
web archive: https://web.archive.org/web/20230410050057/https://www.mext.go.jp/content/20200915-mxt_gaigakuc3-000009913_1.pdf

このPDFにリンクを持つ元ページをたどれない。ただ、
文科省の、「トップ > 教育 > 大学・大学院、専門教育 > 大学における教育内容・方法の改善等について」の下にある、
Q5 日本の大学では、教育内容・方法等の改善がどれくらい進んでいるのでしょうか。:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/005.htm
こちらの「大学における教育内容等の改革状況について」の各年度リンクを見ると、
令和2年度にのみ、ハラスメント関係の調査結果が現れている。
この分野、基本的には教学マネジメント、質保証関係の話なのだが、令和2年度にハラスメント問題を取り上げた経緯は、

令和2年度には、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律及び関係省令等の施行により、事業主が講ずべき職場のハラスメント対策に関する義務が強化されていることも踏まえ、

という事情があったからのようだ。上記リベルタス・コンサルティングのPDFはこれと関係する調査かもしれない。

さて、それから数年後、2023年の令和5年度に戻る。

NHK記事の続き。

調査では「教員が学生に性暴力等を行うことは断じて許されないことであり、懲戒解雇も含めた厳正な対処を行うことが必要」として、学内の規則で性暴力について厳正に対処する方針や具体的な内容、基準などを明記しているかどうかや、性暴力等を行った教員の懲戒処分を公表することを定めているかどうか、聞いています。

また「過去に解雇処分などを受けた者がその事実を秘匿して再び教員として採用され、新たな被害を生むことがないよう、教員採用時に十分に確認することも重要だ」としていて、採用する時に履歴書で性暴力などの処分歴や具体的な事由の申告を求めているかどうかについても調査しています。

文部科学省は、実態調査の結果を公表することにしていて、大学の教員が学生に対するセクハラで処分されるケースが相次ぐなか、調査結果を踏まえ、対策を検討する方針です。

とのこと。なお、文科省サイトではこの調査依頼本文は見つけられなかった。

これに関連して、文科相が記者会見で発言している。

永岡桂子文部科学大臣記者会見録(令和5年6月6日):文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00381.html

記者
 先日、文部科学省が国公立大を対象に教員の性暴力やセクハラの処分基準に関する実態調査に踏み出されたということですが、大臣としては大学の教員による性暴力やセクハラに対してどのような現状認識を持たれているかということと、今後、大学ではセクハラや性暴力防止のためにどのような取組が必要かということを教えていただけますでしょうか。

大臣)
教育機関でございます大学におきまして、学生に対する性暴力等が生じることはあってはなりません。文部科学省では、昨年11月に全ての大学に対しまして、大学等の構成員は学生に対して性暴力等を行ってはならないことや、その防止のために各大学で取り組むべき事項について、通知をしております。各大学において、性暴力等の防止に向けた体制整備が確実に行われることが重要でありまして、本通知で新たにですね、示した取組の実施状況を速やかに把握するため、まず国立大学を対象にいたしまして、性暴力等の行為者への厳正な対処であるとか、教員採用段階におけます懲戒処分歴等の確認などについて、6月1日に調査を開始したところでございます。今後ですね、公立、そして私立大学に対しましても同様の調査を行うこととしておりまして、これらの調査の結果を踏まえまして、各大学におけます適切な対応をしっかりと促してまいりたい、そう考えております。それからあとは対応策ということでございますが、やはり大学におけますセクシャルハラスメント等につきましては、成績の評価や、また単位認定など教員の優越的な地位ですとか立場というものが背景として生じることが特徴の一つとして考えられております。教育者としてですね、学生を指導する立場にある教員が性暴力等を行うことは、本当に許されないことでございまして、11月に全大学に対して通知を発出したということでございます。やはり文部科学省の姿勢、全大学に対して通知を発出したという基本姿勢をですね、明確に発信したわけでございますので、性暴力等を行いました大学等の教職員に対する、懲戒解雇も含めた懲戒処分等の厳正な措置ですとか、被害を受けた学生に対する、指導教員の変更等の教育研究上の配慮などについて具体的に示させていただいております。

今回の調査(要するに文科省お得意の、責任を回避した事実上の指導)では、性暴力に重点を置いているように読める。

セクハラとパワハラアカハラは合併していることが多いので、「性暴力」に力点を置くのはいただけないと思う。「性暴力」の意味を狭く取って逃げることもできそうだし。
しかし、とりあえず、
・懲戒解雇も含めた厳正な対処
・“性暴力についての”対処方針・内容・基準の規則明記
・教員の懲戒処分を公表
・採用時に履歴書で性暴力などの処分歴や具体的な事由の申告を求めること
について具体的に言及したのは、まあ前進と言っていいのではとも思う。

これをパワハラにも拡張する必要があると思う。
それと、せっかく文科省が動くのなら、事案経験の共有の旗振りを考えてほしいのだが。研究不正は公表したりしているわけだし。
ホント、現場は困ってるんですよ毎回……。