自分で有罪だと認めないと有罪にはならないのが大学というものらしい

力のこもった記事。
入試不正指摘された聖マリアンナ医大 なぜ「逃げ得」が許されたのか - 毎日新聞(2020年3月25日 15時14分(最終更新 3月25日 19時12分))

 医学部の入試で女性や浪人生が不利に扱われていた問題で、弁護士らでつくる第三者委員会から不正があったと指摘された聖マリアンナ医科大に対し、日本私立学校振興・共済事業団は25日、2019年度の私学助成金約21億円を交付した。本来、入試に不正があれば、助成金は不交付や減額の措置がとられるはずだ。実際、問題が発覚した東京医科大は2年連続で交付金ゼロ、他の大学も18年度に減額された。なぜ聖マリ医大だけ「おとがめなし」なのだろうか。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】

文科省と事業団が補助金不交付や減額対象をリストアップ

 まず、私立大への補助金交付はどのように決まるのか。文部科学省私学助成課や同省が所管する日本私立学校振興・共済事業団によると、助成金の原資は国費で、文科省が総額の予算を決定し、事業団が教職員数などに応じて各大学の助成額を決定する。法令違反など問題があった大学については減額や不交付となる。その対象になり得る大学は文科省と事業団が連携してリストアップし、事業団理事長の諮問機関である運営審議会が1月下旬に決める。

不正発覚するも2年連続でペナルティーなし

 聖マリ医大の経過をたどる。18年12月発表の文科省の調査では、同大を含む私立9校、国立1校を名指しし、男性に一律に加点する女性差別や浪人生差別などの問題があったと指摘した。しかし、同大のみ差別を否定したため、文科省は「不適切の可能性が高い」との認定にとどめ、第三者委を設置して調査するよう求めた。

 19年1月に運営審議会が開かれ、名指しされた私立8校は18年度の補助金について25%から全額のカットが決まった。聖マリ医大だけペナルティーはなく、3月に満額の約22億円の交付を受けた。

 聖マリ医大は19年3月に第三者委を設置し、第三者委は20年1月17日に報告書を公表した。報告書は、関係者のパソコンなどに残されていた資料を根拠に、15~18年度で女性がほぼ一律に男性より点数が下げられ、現役同士や同じ浪人年数で比べると、最大80点の差をつけていたと指摘。「性別など属性による一律の差別的取り扱いが認められる」と不正を認定した。同大は受験生に受験料相当額を返還する方針を決めたが、「意図的ではない」と主張した。

 その直後の1月20日に運営審議会が開かれたが、聖マリ医大にペナルティーが科されることはなく、3月に21億円の満額の交付が決まった。つまり、不正が発覚してから2年連続で「おとがめ」を免れているのだ。

原因は「自ら不正認めないから」なのか

 どうしてこんな状況が続いているのだろうか。審議会に諮る助成金のカット対象をリストアップする文科省私学助成課は「事実認定は大学入試室の担当。大学側に詳しい説明を求めている段階で、不正があったか否かの判断には至っていないからです」。事業団は「不正かどうかは基本的に文科省がジャッジすること。現状、不正とは整理されていないということです」。不正と認定されていないので、18年度も19年度も審議会に聖マリ医大助成金カットが諮られることすらなかったというのだ。

 ならば「事実認定」担当の文科省大学入試室に聞いてみよう。入試室は、18年に自身の調査で不正を指摘したものの、大学側に否認された。第三者委の報告書が出た後も大学側の認識は変わらず、再度合理的な証拠を示して説明するよう求めたが、いまだに回答はないという。担当者は「早く回答するよう求めているんですが、大臣が言ったように期限は設けていません」。確かに、萩生田光一文科相は1月21日の記者会見で「何か文科省が時間を切ってプレッシャーをかけるというよりは大学の自主性を尊重し、きちんと方向性を示すと期待している」と語っているが、2カ月前の話だ。それでも「今後も期限を設ける予定はないし、事実認定も回答が来てみないと分からないです。時間がかかりすぎているとは思うんですけど……」と歯切れが悪い。限りなくクロと認定していながら、大学が自ら不正を認めて「完オチ」しないと不正にはならない、という理屈だ。

前例踏襲が足かせ? 交付見直し求める署名活動も

 そもそも、不正の認定に大学の自認は必要なのか。助成金の交付基準や算定方法などを定めた取り扱い要領には、減額または不交付となる事象が規定されている。医学部不正入試の場合、「入学者選抜の公正が害されたと認められるもの」という項目が該当するが、認定の要件については記載がない。事業団の担当者は「これまで大学側が否認したまま不交付などを決めたというのは例がない」と、慣例的に自認を前提としてきたと説明する。

 これに対し、東京医科大などの不正入試で被害を受けた元受験生を支援している作家の北原みのりさんは疑問を投げかける。「これまでも文科省助成金を交付しないよう要望してきたが、文科省は『大学の自治の尊重』を理由に強くは言えない、と回答していました。しかし、聖マリ医大助成金を満額受け取るために開き直り、いたずらに時間稼ぎをしているように見えます。助成金カットを受け入れた他大学より悪質で、受験生も納得がいかないでしょう。それを国が見過ごすのは、差別に加担したことになる。文科省自身が不正と認定し、ペナルティーを科せばいいのではないでしょうか」。北原さんは19日からインターネット上で助成金の交付決定に抗議し、文科省に対応の見直しを求める署名活動を始めた。

「逃げ得」の前例とすべきでない 長期的には大学もデメリット

 大学経営などに詳しいジャーナリストの石渡嶺司さんは「助成金の審査は性善説に基づいており、文科省はまさか第三者委が不正と認定しても認めない大学があるとは想定していなかったのだと思います。役所でよくあることで、前例がないため、否認のまま不正を認定するという踏み込んだ対応が難しいのでしょう」と指摘する。一方で「ただこのままだと、否認すれば『逃げ得』が許されるという前例を作ることになり、今後補助金を得るために不正を否認する大学が相次ぐ可能性も出てくる。例えば要領で事実認定の要件を、『第三者委の認定をもって不正を認定できる』などと厳格に定めるなどの対策が必要ではないか」と提言する。

 聖マリ医大の姿勢については「否認し続けることで文科省を敵に回し、世間のイメージダウンもあるので、長期的にはデメリットの方が大きいはずです。しかし、それでもかたくなに変えないというのは、短期的視野でも助成金がほしかったということでしょう。私立の医学部は、学生の保護者からの多額の寄付などで成り立ってきた経緯があるが、近年はサラリーマン家庭の学生も増え、寄付金が減って一般的に単体での経営は厳しいと言われています」。さらに「大学の幹部に女性が働くことや働きやすい環境を整えることへの理解がなく、男女で点差をつけても問題ないという、今の社会通念上許されない考えが根強いという可能性もあります」と推測する。

 毎日新聞は23日、聖マリ医大の広報担当者に学長ら幹部への取材を申し込んだが、「それはできません」と断られた。そこで広報担当者に助成金交付決定について受け止め方を聞くと、こう答えた。「交付されてよかったです」。大学側は第三者委の報告書を公表した際、「真摯(しんし)に受け止め」とコメントしていたが、本当だろうか。