独立の第三者機関による監視という制度を避ける国

官庁統計の信頼性が揺らぐと人文社会科学系の研究は本当に怪しくなるんだけど。各国公表の統計がどれくらい正しいかはもちろん疑わしいけれど、その中でもまた信頼性を落とすことは止めてほしいもの。政策形成においても測定器が歪んでいたら百害あって一利なしなのだけれど。個票公開が進めば、政府公表の集計表は利用せずに一々自分たちで集計し直して研究ということになるのかなあ。日銀がデータをよこせと言った切実さが分かるというか。

統計不正、「身内」が監視 識者「官邸の意向効く恐れ」:朝日新聞デジタル(別宮潤一 2019年7月29日22時44分)

 厚生労働省の統計不正を受けた再発防止策として、政府は今月26日から内閣官房に31人の「分析的審査担当」を配置した。外部審査を強調するが、政府内の「身内」が監視する体制で、第三者性が確保できるか疑問の声が出ている。

 厚労省の毎月勤労統計では、大規模事業所の全数調査を2004年から勝手に一部抽出調査にしていたことが発覚。18年1月からは勝手に数値を補正し外部に公表せずにいた。その後の一斉点検では、56の基幹統計のうち23統計で不正やミスが見つかった。

 総務省の統計委員会は今年6月、各府省内の審査体制が不十分だったとして、統計の調査部署から独立した分析的審査担当を置くよう提言。政府は7月26日付で、各省のベテラン統計職員らを係長級~課長補佐級として内閣官房に配置した。厚労省など10府省にそれぞれ1~4人が常駐し、①公表前チェック②公表済み統計の点検③調査変更時の影響分析④ミス発覚時の対応――にあたる。

 しかし、首相がトップの内閣官房が審査する体制には、「第三者性」を問題視する声もある。新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「中立的、科学的であるべき統計は、人事院のような独立機関が所管するべきだ。内閣官房が関与するということは、官邸の意向がストレートに効く恐れがある」と指摘する。

 毎月勤労統計では、中江元哉・首相秘書官(当時)が15年3月、厚労省幹部に調査手法について「問題意識」を伝えていたことが判明。結果的に意見通りの手法が導入され、賃金伸び率の上ぶれにつながった可能性を野党が指摘した。

 同省の特別監察委員会は官邸の関与は検証せず「組織的隠蔽(いんぺい)はなかった」との調査結果を発表。同委委員長(当時)が同省所管の独立行政法人の理事長を務めていたことなどから、第三者性への疑念が指摘される事態となっていた。

 統計の一斉点検で不正が発覚した同省の賃金構造基本統計では、総務省行政評価局が調査を担当したが、「どんな背景で(問題が)起こったか掘り下げられていない」などとして、同じ総務省の統計委が報告書を「不十分」と断じた。

 菅義偉官房長官は29日の閣議後会見で、内閣官房による審査について、「各府省統一的な水準で、個々の統計調査担当とは離れた立場から、統計の分析審査を推進していく必要がある」と説明した。(別宮潤一)