週刊朝日による2019年度私立大学実志願者数ランキング

本当の人気私大は? 学内併願を含まない「実志願者数」を独自調査 (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)(2019.5.5 08:00)

 今年の入試では私立大が難しくなった。定員の厳格化で枠が狭まるなか、一部の大学に受験生が集中したためだ。志願者が10万人を超える“人気校”も目立つが、これはのべの数字。本誌の記事をきっかけに、併願をカウントしない「実志願者数」を公表する大学も増えている。本当の人気度を示す実志願者数を調査した。

 

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 大学が一般的に公表しているのは「のべ志願者数」。例えば、1人の受験生が同じ大学の三つの学部・学科を併願した場合、志願者数は3人となる。これに対して実志願者数は、1人の受験生がいくつ併願しても、1人と数えたものだ。

 

 近年、各大学は志願者を増やそうと、併願しやすい制度を充実させてきた。ネットで簡単に併願を申し込めたり、受験料を割り引いたりできるようになっている。

 

 少子化にもかかわらず、多くの大学で志願者数が伸びているのは、こうした背景がある。教育関係者らからは、のべ志願者数だけでは大学の実態が正確に捉えられない、という声が出ていた。

 

 そこで本誌では、昨年から実志願者数調査を独自に始めた。今年はのべ志願者ランキングの上位50大学にアンケートをお願いしたところ、47大学が回答、その結果を「実志願者数ランキング」としてまとめた。

 

 1位になったのは法政大で約5万7千人。昨年はわずかな差で明治大が1位だった。2014年に田中優子総長が就任してから改革が進み、いま最も勢いのある大学の一つだ。法政大の入学センター長は、「本学の学生生活に対する期待の表れだ」と胸を張る。

 

 2位は明治大で約5万5千人。次いで早稲田大、日本大、東洋大。のべ志願者数が約15万4千人で1位だった近畿大は、実志願者数では約3万人で12位だった。

 

 今年は早慶上智やMARCH、関関同立など、難関私大で実志願者数が軒並み減った。それに対し、複数の中堅私大は増えた。専修大神戸学院大はともに前年比15%増。成蹊大は13%増、京都産業大は5%増だった。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長は、中堅私大の健闘についてこう分析する。

 

「定員厳格化の影響で難関私大の競争が激化しました。それを受けて受験生が敬遠し、中堅私大への出願を増やした。その結果、中堅私大も難化。専門学校へ進学する受験生も多くなっています」

 

 理系が強い大学の人気も見て取れる。東京都市大は実志願者数が前年比18%と大きく増加。東京理科大、芝浦工業大、東京電機大なども増えた。

 

「AI(人工知能)やICT(情報通信技術)などが注目され、理系の人気が上昇しています。東京五輪後には景気が悪化するという見方があり、不景気でも就職に強い理系を選択する動きもある。情報系の分野を中心に、理系人気が復活しています」(石原さん)

 

 実志願者数とのべ志願者数の差が大きい大学もある。のべ志願者数を実志願者数で割った、「併願率」を見ていきたい。併願率の平均は47大学で278%。平均すると1人あたり3学部・学科を併願していることになる。

 

 併願率が最も高かったのは摂南大で602%。一般入試(前期A日程)では、1回の受験料3万円で最大4学部・学科を併願できる。5千円追加すれば、最大12の併願も可能だ。

 

 次いで高かったのが千葉工業大で、併願率は543%。1回の受験料3万円で、最大17学科を併願できる。今年から、試験日前日までネットなどで出願を受け付ける制度を導入し、“駆け込み出願”しやすくなった。

 

 両大学とものべ志願者数だけでなく、実志願者数も増えた。併願制度が充実していることは、受験生にとってチャンスが高まるメリットもある。

 

 もちろんリスクもある。大学通信の安田賢治常務は、併願しやすくなったことで、第1志望の学部・学科に進まない受験生が増える恐れを指摘する。

 

「併願した学部・学科に合格し、入学する人もいます。学びたいことや将来の希望とのミスマッチが起きる可能性があります」

 

 受験生は学びたいことを見極めたうえで、併願制度を活用することが大切だ。大学側も千葉工大のように、入学後にほかの学部・学科に移りやすくするなど、ミスマッチへの対策をしている。

 

 のべ志願者数が増えれば、志願倍率は全体的に高まる。本当の競争率を見るためには、実志願者数を募集人員で割った「実志願倍率」が重要になる。

 

 例えば京都産業大では、のべ志願者数の志願倍率は28.6倍だったが、実志願倍率だと5.7倍となる計算だ。

 

 このように実合格者数は受験生らにとって知りたい情報だが、大学側は長年積極的に公開してこなかった。本誌の昨年の報道をきっかけに公開の流れが強まり、今回のアンケートには47大学が回答した。

 

 前年公開しなかった大学でも、「ほかの大学が公開するのであれば拒否できない」などとして応じたところもあった。

 

 今回非公表としたのは中京大西南学院大、文教大。今回のランキング対象で非公表だったのは3大学だけだが、ほかの大学でも公表していないところは珍しくない。

 

 非公表のところに限らず、大学側にとって実志願者数は出しにくい情報のようだ。ある私大の入試担当者はこう明かす。

 

「実志願者数とのべ志願者数を比べられることは、大学側には厳しい。志願者数が本当は少なかったんだと、受け取られる可能性があるためです。多くの大学では前例踏襲や横並びの意識が根強く、新たな情報公開に踏み出しにくいこともあります」

 

 とはいえ、公開の流れを止めることはできない。大学通信の安田常務はこう指摘する。

 

「のべ志願者数が『量』で示す人気だとすれば、実志願者数は『質』を表す数字。受験生や教育関係者にとって有益な情報であることは間違いない。文部科学省は大学に対して、一般的に積極的な情報公開を求めています。大学側の姿勢が問われています」

 

 これからは、のべ志願者数だけではなく、実志願者数をいかに伸ばすかが、大学経営の課題になってくる。併願に頼らず、一人でも多くの受験生を集めようと、試験制度を見直しPRに力を入れるところも出てきた。実志願者数を積極的にアピールする動きも予想される。大学全体が本質的な競争に向かうことを期待したい。(本誌・吉崎洋夫、緒方麦)

【魚拓】実志願者数ランキング (週刊朝日2019年5月3日‐10日合併号より)