コールセンターを「情報通信関連産業」という虚飾

沖縄のコールセンター、「4割離職」の現実:日経ビジネスオンライン

まあ危惧されていた結果ではあるよね。
沖縄総合事務局の山谷さんという人のインタビューだが……。以下断片的に感想をメモしておく。

・年間の離職率が4割
沖縄県のコールセンター産業には、県内情報通信関連産業の全雇用者の約70%に当たる1万7049人(76社、2015年1月現在)が働いています。

そもそも「情報通信関連産業」にくくるのに無理があるよね。オペレーター業務ってファストフード店員かコンビニ店員レベルの仕事だし、雇用形態も正職員じゃないしね。

・これは全国に先駆けて、様々な施策を打ち出してきた成果です。
・そうした努力のかいあってか、沖縄県は福岡県や北海道を抑えてコールセンターの事業者数で全国一となり、国内屈指のコールセンター集積地となりました。

いや主には労賃と作業内容の問題だよね。他県より労賃が安いから業者はありがたい。県内の求職者から見れば、賃金は高いとは言えないけどオフィスワークだし、地場の中小企業でもないからイメージも悪くないし。
そもそも業者の立地を見れば労賃節約型になっていることは明らかで、誘致にしても海外との競合ですらあったわけで、若い低賃金労働者が豊富に取れるのが魅力だったわけで。
通信費や立地コストの優遇はそれを引っ張るのに役だったということで、沖縄振興の補助金は言い換えればコールセンター業者へのサービスに消えたわけです。
しかも、これ、地場の若者がここで蓄えたスキルを持って次に展開するとかいうモデルにならない業務だからねえ。いわば偽装失業状態にある地場の若者を未熟練単純労働力の地位にとどめ置き、年だけ取らせるという地域人材使い捨てモデルだから。

・しかしながら、ここ数年は気になる統計もありました。有効求人倍率がおよそ2倍に達していたことです。
求人倍率が高いということは、働きたいと考える人が少ないということ。
・「クレーム対応でメンタル的に厳しい職場」「新人研修などがあまりない」「賃金が低い」など、総じてマイナスイメージを指摘するものばかり……
・新卒採用の窓口になる大学などの就職担当者に対しても同様の調査を実施したところ、「パートやアルバイトの仕事」「雇用形態が非正規のイメージ」……

まあメッキがはげたというところですよね。
鹿児島県でも沖縄県同様にコールセンター誘致に注力して、駅前の一等地にオフィスを安価に提供し、入居した業者が四大卒を大量に取ったりしました。奄美市でも建物まで建てて誘致したりもしたんですよね。で……まあねえ……。

・コールセンターで働く人の内訳は、雇用期間が1年以上の非正規社員が約4割、同1年未満が約3割、派遣社員やパートが約3割というものでしたが、いずれも年間の離職率が約4割とかなり高い数字になっていたのです。沖縄の振興を図ってきた内閣府沖縄総合事務局としても厳しい現状を直視しているところです。
・一連の調査の結果で突き付けられたのは、「コールセンター事業は、最初は新たな産業で魅力もあって人も集まったが、今は違う」という厳しい事実です。

4+3+3=10割が非正規ということですかね?(笑)
今更「厳しい現状を直視」って、いや、絶対事情はうすうすは知っていましたよね。誘致の段階から分かっていたはずですよね。こんなの人身売買みたいな商売だけど、他に誘致できる華々しい業種なんかないから、目をつぶっていただけですよね。
コールセンターのオペレーターなんて、ITスキルなど必要ないし、もちろんITスキルを学ぶ機会などない。単なるカスタマーサービス代行とテレアポとクレーム対応だけでキャリアアップの望みなどない。それを「IT産業」ともてはやし、最先端のオフィスワーカーみたいなイメージをばらまいて売ったわけだから、「魅力もあって」ってそれはそのように見せかけただけでしたよね。一時は役所も学校も、県外大手資本が都会の香りと共に持ってきてくれた洗練されたビジネスだよみたいに売っていましたよね。
 
で、対策というと……。

・対策の一つは、異業種と人材を融通し合うことです。コールセンター事業は忙しい時とそうでない時の差が激しい。一方、沖縄の観光産業の核であるホテルや飲食事業も繁閑の差が激しい。ちょうどこの異なる業種で人材が行き来できるようにして、雇用や賃金を安定させ、人材を確保するという手があります。

結局離職率は減らないけどこれは割と行けるかも。パート労働の流動化+兼業化というかたちで行けば、非正規労働力の効率的な利用を進められるかもしれない。ただ、極端に言えば日雇いレベルでの労働力の集散を産業レベルで上手くまかなえるか。ブラック労働はそのままに、寄場のブローカーとかバイト派遣業みたいな人身売買ビジネスが中抜きでエグい利益を上げていきそう。というか、たぶんもう事態はそのように進んでいるんじゃないか。

・コールセンターに新事業を提案しバックアップすることも検討中です。
・一連のデータを大量に集め、県内のビッグデータ解析ができるIT(情報技術)ベンダーと協業すれば、新たな収益源確保につながる可能性は少なくない

ビッグデータとか、今頃言ってるとか……汗。しかも何の解析をするの……汗。いやなんかの中小ネタはあるかもしれないけど、産業の軸にはならんでしょ。良くて焼け石に霧を吹くみたいな効果しかないでしょう。

・ライフスタイルやライフステージに応じた雇用形態を作ることに加え、働きながら子育てできる託児所や保育所、学童施設、テレワーキング・サテライトオフィスなど、多くの人が働きやすい環境の充実に努めることも必要です。

いやだからこの仕事って所詮キャリアアップできないし、業務もパートで十分だし、腰掛け以上ではないんだよね……。今海外コールセンターも苦戦しているみたいだけど、労賃の競合が基本的な立地制約だから、日本経済が相対的に没落すればするほど立地基盤は強くなる。だから場合によっては今後も残る可能性はあるけれど、雇用のモデルは基本的にファストフードチェーン的なモデル以上ではないんだよね。そこを見ないで、業種や職種に無関係な雇用環境改善のネタを並べられても、この業界の求人難解決にはあまり意味はないよね。

・最後はイメージの改善です。

いや、それを虚飾というんですって。マクドナルドに就職する人は、一生を店員で終えるつもりはないでしょう。でもそれってマクドナルドで働く人のほんの一握りにすぎない。それに匹敵するキャリアパスを用意できるんならそれで求人するのもいいでしょう。でもそれを「県内情報通信関連産業の全雇用者の約70%に当たる1万7049人」全部に提供できるわけがないわけです。外食チェーンに類似した雇用構造しか持てない業界なのに、雇用環境がいいよみたいなことで産業全体でイメージアップすると言っても、どうしても嘘になるでしょう。むしろメッキがはげた今だからこそ悪質業者を徹底取り締まりするぐらいな話にしないといけないはずです。でもできないんですよね。そうすると立地の魅力がなくなるので。
 
求人倍率の比較で出てきた業種って皆資格業種(士業の類い)だし、経歴でキャリアアップできる可能性もある。保育士はちょっと厳しいけれど。そういうのと比較すればそりゃ人が集まりにくいに決まっている。なんでそういう比較が出てくるのか。そんないい業界じゃないのにそういうキャリアと比較できるようなふりをしているだけじゃないのか。
結局、働く人の人生設計とか思いとか都合とかに寄り添わないで、低賃金労働を売りにして誘致してきて、余剰労働力を使い捨てるっていうビジネスなのに、そこを見ないふりをして美化しようとするからおかしくなるんですって。人手不足なら賃金を上げて労働条件を改善すればいいんです。大体、調査ではちゃんと「低賃金だ」というイメージが出ているのに、「対策」はそこには触れない。もう馬脚が見えているんですよ。
そもそもコールセンター業界って構造は外食産業と同じでしょうに、外食産業を同様の方法で振興しようという話は絶対に出ない。なのにコールセンターには出る。なぜか。それは役所がカネを積んで誘致した「新産業」だからです。外食は零細も多くてつながりも不明瞭だけど、誘致してきた業者とは政界官界ともに顔が見えているしねえ。で、その誘致政策のほころびを弥縫するために頑張っている。しかも労働環境を是正する方向ではなく、業者に低賃金のうまみをすする余地を守る方向で。そりゃ業者は残るかもしれないけれど、高離職率とか求人難とかは解消されないよね。結局、役人たちの「俺たち頑張ったよなあ」という思い出作り(10年後に飲み屋で「沖縄懐かしいなあ」ってしゃべるアレ)(+業績(苦笑))になって終わりですよ。場合によったら業界とのコネができてムニャムニャ……みたいな展開もあるかもしれないけれど。まあ沖振とか奄振とかそんなネタばっかりですよ。