都内大学の首都圏高校出身者シェア増加傾向の記事

都内有名大、増える首都圏高卒 30年間で1.4倍に:朝日新聞デジタル(2016年5月1日01時34分)

 東京大など東京都内の有名5大学で、今春の入試合格者の75〜55%を首都圏の高校出身者が占め、30年間で約1・4倍に増えていることがわかった。下宿生の経済負担増などが背景にあるとみられる。地方出身者の東京離れを食い止めようと、大学側は奨学金新設などの対策を始めている。

 進学情報誌を発行する大学通信と毎日新聞出版は毎年、主要大学の出身高校別合格者を調査。1986年と2016年のデータ(16年分は朝日新聞出版も調査に参加)を元に、東大、東京工業大、一橋大、早稲田大、慶応義塾大の合格者(早大と慶大は一般入試のみ対象)を分析した。

 その結果、首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川県)の高校出身者は、東大は86年の47・3%に対し今春は55・2%。ほかは東工大61・6%→74・7%▽一橋大44・7%→69・4%▽早大51・8%→73・9%▽慶大56・0%→72・6%と、いずれも増えていた。首都圏の高校生の数が全国に占める割合は86年、16年ともに25〜26%で、ほぼ同じだった。

 出身高校の国公私立別では、86年は5大学全てで公立が最も多かったが、今春は全大学で私立が最多に。特に首都圏の私立出身者が目立ち、東大以外の4大学では合格者の半数近い49〜42%。東大も37・8%(86年は22・3%)だった。

 東京地区私立大学教職員組合連合の15年度の調査では、都内で下宿する私大生への平均仕送り月額は86年度比で16%減少。一方で家賃は76%上がった。また、受験指導に力を入れる学校が多い私立中高一貫校は、全国の約4割が首都圏にある。高校関係者や専門家からは、こうしたことが影響しているとの指摘がある。

 学生の画一化などを懸念する大学側は、地方出身者の確保策に乗り出した。早大や慶大は近年、地方出身者向けの奨学金制度を新設している。(岡雄一郎)

記事中のグラフから数値を書き起こした。

東大など5大学合格者の出身高校は

大学通信、毎日新聞出版朝日新聞出版のデータから作製。小数点以下四捨五入のため合計が100%にならない場合がある

地域 都道府県 1986 2016
その他   22 13
九州・沖縄 福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、熊本、鹿児島、沖縄 6 3
近畿 大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀 7 5
東海 愛知、静岡、岐阜、三重 12 6
首都圏 東京、埼玉、千葉、神奈川 53 72

なんで北海道や東北や関東、中国四国を出さないのだろうか。表でもいいと思うんだけどなあ。
 
1.4倍というのはシェアが1.4倍になったという意味で、実数ではないようだ。
30年間で1.4倍→平均年成長率は約1%。高いのか低いのかよく分からないなあ。首都圏の人口シェア増加率と合わせてみたらどうかな。
 
こんな白書があった。
内閣府『地域の経済2011 −震災からの復興、地域の再生−』
平成23年度 地域の経済2011 目次 - 内閣府
補論1 1.戦後の首都圏人口の推移 - 内閣府
ここの第4−1−2表。
1980年の首都圏人口シェアは24.5%、2010年が27.8%で、約1.13倍の増加にとどまっている。また、記事によれば高校生数のシェアはほとんど変化がないそうだから、人口シェアだけの問題ではないようだ。
 
数字だけを見ると、これら5大学がローカル色を強めているというようにも読める。大学進学率の上昇や人口移動率の低下、地元志向意識の強まりなどのデータを持ってくれば、「東京のエリート大学に行くだけが立身出世の道ではなくなってきたのだ」とか「進路の多極化」などというようにも読めるかもしれない。
ただ、合格者構成で首都圏私立が伸びているのが受験対策が原因だとすれば、これらの記事の論調の支持理由にはなる。
以下の記事では、教育格差や仕送り負担に加えて、少子化による親の子供の囲い込み志向、子供の親への経済的依存心やネットによる情報格差縮小などに触れられている。
*****
地方高校生に「東京離れ」 仕送り負担、地元志向強まる:朝日新聞デジタル(2016年5月1日02時52分)
 東京の有名大学で、合格者の「首都圏集中」が進んでいる背景には何があるのか。仕送りの負担増のほか、親や子どもの意識の変化もあるようだ。学生の多様性が大学の活性化につながるとみる大学側は、画一化を懸念する。

 島根大55人、岡山大16人、鳥取大16人――。4月下旬、島根県立松江南高校(松江市)の進路指導室前には大学合格者数が書かれた紙が貼られていた。都内の有名大は少なく、30年前に11人が受かった東京大は1人だけだった。

 「広い世界を見てほしいが、無理強いはできない」。長野博校長(59)が生徒の東京離れの一因とみるのは、経済負担だ。地元でも国立大の授業料は年約54万円で30年前の2倍超。都内なら仕送りも要る。同高では近年、卒業生の約半数が奨学金を申請する。

 東京地区私立大学教職員組合連合が2015年度、都内で下宿する私大生の親にアンケートした結果、仕送りの月額平均は1986年度より約1万6千円少ない8万6700円だった。一方、平均家賃は2万6500円高い6万1200円。仕送りの71%が家賃に充てられ、生活費は1日平均850円だった。同連合の担当者は「下宿生の生活環境は悪化している」と話す。

 一方、親子ともに地元志向が強まったとの指摘もある。松江市の進学塾経営者は「親に『子どもに近場の大学を勧めて』と頼まれることが増えた」。駿台予備学校の石原賢一・進学情報センター長も少子化を踏まえ、「子どもを遠方に出さない親が増えた」という。

 リクルート進学総研が13年の高卒者に尋ねた調査では、大学進学者約3千人の49%が「地元に残りたいと思った」と回答。09年より10ポイント増えていた。「地方にこもる若者たち」の著書がある阿部真大(まさひろ)・甲南大准教授(社会学)は「東京で苦学するより、親の経済力に頼れる地元にいる魅力が大きいのだろう」と指摘。ネットの普及で、地方都市でも都会と同レベルの情報が得られるようになったことも影響しているとみる。(川口敦子、岡雄一郎)

■大学側は学生確保に躍起

 地域貢献型人材発掘入試(仮称)。早稲田大は18年度、こんなAO入試を始める。受験生が考えた地元への貢献策を示させ、地域性を重視して選考するという。09年度からは首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川県)以外の高校出身者を対象に「めざせ! 都の西北奨学金」を新設。親の所得などの条件を満たした学生に年40万円を給付してきた。17年度からは制度を拡充し、半期分の学費相当額(約50万〜80万円)を免除する。

 慶応義塾大も12年度、首都圏以外出身の学生向けに「学問のすゝめ奨学金」を設け、親の所得などの条件を満たす学生に年60万〜90万円を給付している。法学部はAO入試で12年度から、全国7地域別に定員枠を設けて学生を募集し始めた。「多様な学生が集まればこそ学びの場が活性化する。偏りがあると、見識を深めることに弊害が生まれる」(慶大広報)と考えたためだ。

 東京大は昨年、各高校の出願人数を「男女各1人」に絞った推薦入試を始めた。合格者の出身校が、一般入試で多くの合格者を出す首都圏の私立高などに偏らないようにする狙いがあり、「合格者の出身地が分散し、うまくいった」と相原博昭・副学長は話す。(石山英明)

「大学側は学生確保に躍起」と見出しにあるが、これらの大学は数としての学生確保には困っていないので(というか、取りすぎを避けたいぐらい。特に私学は)、たぶん多様性云々などの他の理由の方が大きいのじゃないかと思うし、経営戦略上はそれほど重要なイシューではないのではないか。地域格差アメリカのアファーマティブアクションほどに重視されていることもないだろうし。
しかし、首都圏の私大は地方を草刈り場みたいに考えている節もあるので、私学の規模拡大競争というロジックはあるかもしれない。地方の大学からすると、殺しにかかってきているのかと思うことがある。この上、費用格差の障壁まで除かれたら本当に死んでしまうかもしれない。あと地方大に残る競争優位は地元就職への強みぐらいだが、地理的距離に由来するコストは中長期的に縮小しつつあるし、この上、これら大手の大学が地元就活の支援まで始めたりすれば、とんでもないことになりそうだ。大きい大学にとって100人はゴミみたいな数字かもしれないが、過疎地方の大学はその100人にすがって生きているんだよなあ……。