記事クリップ:映画誘致で佐賀県のタイ人観光客が増えているという話

ロケ地巡りは一過性になりやすく定着しづらいのだが、そこを何とか持続させたいということで、県観光連盟や市では継続的な取り組みを行っていく、ということのようだ。
九州の他の取り組みにも少し触れている。
熊本市イスラム教徒向けの取り組み
別府市:APUの他の取り組み
他の自治体もいろいろやっているところがあるのだが、いずれにせよ成果が目に見えるものではないので、息長く続けるための理解促進が大切だろうと思う。

佐賀、タイ人観光客に大人気 きっかけは映画ロケ誘致:朝日新聞デジタル(2015年10月9日07時34分)

 全国的に急増している外国人観光客。九州各地でも集客に躍起になっている。なかでも佐賀県は、タイの映画のロケ誘致に成功したことから現地で大ブレーク。都会の観光スポットではあまり経験できない「日本らしさ」がうけているようだ。

■「東京や大阪、京都はもうふつう」

 タイ語で願い事が書かれた絵馬が境内に並ぶ。佐賀県鹿島市祐徳稲荷神社。参道の土産物店には、タイ語の案内の紙が目立つ。タイの大型連休にあたる今年4月、神社には1日約300人のタイ人が訪れた。今も連日、20〜30人が訪れる盛況ぶりだ。

 家族5人連れでレンタカーで訪れたタイ人男性のエッカシャイ・ワーリンシリルックさん(34)は、インターネットの旅行情報サイトで佐賀の写真を見て関心を持ったという。「東京や大阪、京都はもうふつう。僕らは新しい体験がしたい。佐賀の静かなこの景色は素晴らしい」と満足げだ。

 観光庁の外国人延べ宿泊者数調査では昨年、佐賀県へのタイ人旅行客が前年比で4・5倍の1540人になった。6万6千人を超す福岡県と比べるとまだ少ないが、伸び率は九州各県の中で際立っている。今年は6月末までの半年で1480人が訪れ、とどまる様子はない。

 火付け役は、佐賀を舞台に撮影されたタイのドラマや映画だった。ロケを誘致したのは県フィルムコミッション。2013年にタイの観光ビザが免除されたのをきっかけに狙いを定めた。有名監督がロケ地を探していると知ると、イカ漁で知られる呼子漁港の写真を手に乗り込んだ。ひなびた風景を気に入った監督は撮影を即決した。

 昨年2月、佐賀で撮影された映画「タイムライン」がタイで封切られると、県の推計で動員数約28万人の話題作になった。ロケ地になった祐徳稲荷神社などが一躍、注目され、佐賀の認知度が高まった。

 その後もタイの国民的スターが主演するドラマのロケ地に佐賀が選ばれ、無料通信アプリ「LINE」のタイでの動画アプリ開始記念で、佐賀を舞台にしたドラマが配信された。

 撮影地は、山あいの農家や河川敷など、どこにでもありそうな場所だが、県フィルムコミッションの近野顕次さん(34)は「それがタイ人が抱く日本のイメージと重なったのでしょう」とみる。「スカイツリーも富士山もないけれど、日本の原風景は佐賀にある」とアピールしたという。

 今年1月にはタイで人気の新婚旅行用雑誌が約80ページを割いて佐賀を特集。県観光連盟は「誰もが訪れる東京や京都のゴールデンルート、北海道に続く、第3の訪問地として開拓されている」とみる。

 受け入れ側も対応に追われている。鹿島市は駅周辺の観光案内所やタイ語のパンフレット作りを急ぐ。祐徳稲荷神社の門前商店街は今月12日、タイ人観光客のおもてなし研修を開く。おみくじのタイ語版を作成するなど、佐賀ブームを一過性にしないよう模索する。(松川希実)

■九州各地で外国人客呼び込み

 外国人観光客の呼び込みは、ほかの地域でも活発になっている。

 熊本市は、マレーシアやインドネシアなどムスリムイスラム教徒)が多い国の観光客誘致に力を入れる。ムスリム向けの飲食店10カ所と、礼拝用マットなどが用意されているホテル5カ所、モスク(イスラム寺院)の場所などをまとめた地図を1万部印刷した。

 掲載した店舗に貼ってもらう「ムスリム・フレンドリー」の認定ステッカーを作成した熊本大の吉村鴻大郎さん(4年)は「ステッカーを見ればムスリムを受け入れている実感もできる」と期待する。

 ムスリム観光客は急増中。市国際室によると、市内のホテルに宿泊したマレーシア人は2011年に241人だったが、昨年は1139人。インドネシア人も157人から848人となった。

 13年に熊本で開かれた「水銀に関する水俣条約」の外交会議で多くのムスリムが市内に宿泊した経験が一因となり、官民挙げての取り組みが加速したという。市は、飲食店やホテル向けに、ムスリムの受け入れノウハウをまとめたガイド本も作成した。

 市内の居酒屋チェーン「えびす丸」など5店舗では、市の地図の完成にあわせ、ムスリム向けのメニューを提供し始めた。「ハラールコース」は、イスラムの戒律で禁じられる豚肉や料理酒などは使わない。店舗を運営する会社は「ムスリムの人たちの食の選択肢を広げたい」と期待する。

 一方、多くの留学生が在籍する立命館アジア太平洋大学(APU)がある大分県別府市では、留学生が観光の案内役を担っている。商工会議所が2012年度から、観光ガイドや母国向け観光情報の発信役の担い手として、留学生を「観光コンシェルジュ」に認定している。研修を受けてもらうなどしてこれまで計20人を認定。今年も6カ国・地域の13人が研修中だ。

 自分の国から団体客が来た際などに対応する。商議所の担当者は「海外観光客の反応はいい。今後もこつこつと続けていきたい」と手応えを話す。(籏智広太、平塚学)