負の側面も射程に置いてこそ産業遺産の保存意義は高まる。

「7カ所は強制労働の場」韓国が反発 産業革命遺産巡り:朝日新聞デジタル(2015年5月4日23時55分)

 「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録される見通しとなったことに対し、韓国が反発している。23資産のうち7カ所で日本の植民地時代に朝鮮半島出身者5万7900人が強制動員されたといい、韓国メディアは4日、「『強制徴用』の産業施設、世界遺産登録有力」などと速報した。
 韓国外交省の当局者は4日、「強制労働が行われたという事実は無視したまま、産業革命施設だけで美化して登録するのは、世界遺産条約の基本精神に反する」と指摘。韓国側は世界遺産にはふさわしくないとして、正式な登録を阻止する反対運動を強める方針だ。韓国国会の外交統一委員会も4日、登録をめざす日本政府を糾弾する決議を採択したばかりだった。
 一方、下村博文文部科学相は「近代産業遺産群は1910年以前の話。そこに強制的に朝鮮の方の労働が行われたとかいうことではない。時代が全然違う。韓国の懸念は当たらないということを丁寧に説明していきたい」との姿勢を示している。(ソウル=東岡徹)

韓国外務省の指摘は重要かつ当然な問題提起。歴史をどう扱うべきかという点において積極的で建設的な議論の契機にもなり、ひいては産業観光が地域振興にどのような意義を持っているのかという根本的な問題を深める機会にもつなぐことができる良いきっかけをもらったのだが、下村文科相の発言はこの焦点を外し、産業遺産が単に国威発揚や浅薄な愛国心を涵養するための素材の一つでしかないような認識を示していて非常に残念であるし、このような発言自体が韓国側の懸念を裏付けるものと受け止められるであろう。
さらに明治の産業革命遺産の保存意義が日韓併合以前に完了しているという認識であるとするなら、産業遺産に対する文科省の姿勢は浅薄に過ぎると言わざるを得ないし、それであればユネスコが「世界遺産」とするほどの意義もないであろう。