餅は餅屋で買った方がいいという話。

はてなブックマーク - 東京都議会の塩村議員に対する野次を冷静に分析した結果(小笠原 誠治) - 個人 - Yahoo!ニュース
上記のブックマーク経由で知ったこのコラム。現場の状況に関する新情報が報じられたのかと思ったのだが全く違った。
Yahoo!サイトからはなぜか削除されていたのだが、先人諸賢のブクマコメントの導きにより、Yahoo!の魚拓とこの著者の個人ブログの記事を一読した。ブクマってありがたいですね。

上記の内容は多くのブクマで批判されている通りであり、論評に値しない。
ただ、この著者の方は経済畑の人だというのでちょっと気になった。
BLOGOSの著者紹介によると、この方は経済学の教科書を出版したり、リカードの解説をしたりしているらしい。

1953年6月生まれ。長崎県島原市から情報を発信しています。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。講演も行います。
小笠原誠治の記事一覧

ただ、Yahoo!ニュースのプロフィール紹介によると研究者ではなく、学部卒業以来ずっと大蔵・財務省に勤務していた人で、退職後「経済コラムニスト」に転進されたとのこと。

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。以降、経済コラムニストとして活躍。
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「経済コラムニスト」だそうだが、Yahoo!ニュースには、例えば下記のような、なんだかもの凄いエッセイを寄せておられて驚かされる。

また、ご本人の個人ブログでもいくつか記事を拝読したが、日本の納税者が1億人いる計算をしていたり中国の報道官が女性だったことを日本を挑発する作戦だと論じていたりご自分がテキトーに引いた近似直線を元にムーディーズの予測に韓国びいきのバイアスがあると分析してみたりで、なかなか微妙な気持ちにさせられた。
しかし、教科書を出版されているぐらいなので、念のためそちら方面を確認してみる。

ミクロ経済学の方について、Amazonの「なか見!検索」で軽く目を通したが、ところどころ誤解を生みそうな微妙な記述が出てくるので初学者向きではない。そして初学者ではない人は読む必要がない。
初めの方に社会主義経済とか市場の見えざる手とかの危ないタームが乱暴に出てくるのが一つの象徴。理論的な議論と現実の叙述との区分けが曖昧に見えるところも危ないポイント。初学者向けのはずなのにいきなり無説明で国民所得恒等式が出てくるし、経済主体の説明もラフでミスリーディング。単純化のための仮定と現実の説明、また国民所得勘定上の定義の話が混ざっていて危ない。真ん中あたりで出てくる消費者理論で端点解の説明では、無差別曲線の例が微妙な感じ。巻末の「おわりに」は何を言いたいのかわからないし、そもそも厚生分析を誤解している。あと、「犯罪を減らす方法」というコラムがひどい。経済学者が皆厳罰主義者であるかのような話になっている。
マクロの方もちょっと見た。中古品の販売者が得た利益がGDPにカウントされないかのような記述があるが正確ではない。巻末の「おわりに」で財政政策の効果について論じているところも議論の前提が不明で何を言いたいのかわからない。そして最後に参考文献としてマンキューや井堀氏のテキストが挙げられているのを見て、非常に脱力させられた。初めから参考文献を読んだ方がずっとよい。

結論

初めて餅を買う人は、定評ある餅屋で餅を買った方がよい。変な物が混ざった餅モドキを「餅とはこういうものだ」と信じ込みかねない。