コモンズとしての温泉源の管理

城崎温泉の苦闘と先駆的な役割は著名。
たとえば、『城崎町史』や古川顕『温泉学入門 有馬からのアプローチ』関西学院大学出版会2014年などなどを参照。

一方、『諸国温泉番付』で城崎温泉を抑えて堂々の西の大関を張っていた有馬温泉だが、その泉源管理は未だに私有制が主であり、地域共同の集中管理へ向かう気運は盛り上がらないようだ。
有馬温泉は土地面積の広さでも限りがあるなど、いろいろと資源制約が厳しい。資源の公共性を強く意識しなければ、共存共栄のまちづくりは困難だろうと思うのだが。

有馬温泉の泉源不足問題

有馬温泉で別の泉源を無許可利用 神戸市から購入  :日本経済新聞(2015/2/8 18:49)

 日本三名泉の一つとされる有馬温泉(神戸市北区)にある六つの旅館やホテルが別の泉源を無許可で利用していたことが8日、分かった。このうち一部の施設では別の泉源を利用していることを掲示していなかった。また湯を販売した神戸市も各施設の利用許可の有無を確認していなかった。

 神戸市や有馬温泉旅館協同組合によると、利用していたのは、神戸市が所有する同区の市立フルーツフラワーパークの泉源。温泉法は、泉源の利用に自治体の許可が必要と定めており、神戸市は同日までに、有馬温泉観光協会を通じて利用許可申請を出すよう注意喚起した。

 有馬温泉では、12施設が利用する「極楽泉源」(神戸市所有)で2012年夏ごろに湯量が減り、改修工事を実施。昨年5月からは不具合で停止するなど不調が続いており、湯量不足のため、複数の施設でパークの泉源を利用していた。

 神戸市と観光協会は、パークが開業した1993年に、改修工事などで湯が不足した場合に売買する協定を結んでいる。13年度は有馬温泉の13施設に販売していたが、利用許可があったのは7施設のみだった。14年度も11施設に販売し、4施設が無許可利用だった。

 有馬温泉旅館協同組合の増田晴信理事長は「認識が甘かった。速やかに利用許可を取るよう各施設に指示した」と話した。市の担当者は「各関係課が連携して、利用許可の有無などの確認作業を強化したい」と話した。〔共同〕

神戸新聞NEXT|社会|有馬温泉で別の泉源無許可利用か 複数の施設、神戸市から湯購入(2015/2/8 07:00)

 日本有数の温泉地・有馬温泉(神戸市北区)にある旅館やホテルで、少なくとも6施設が、無許可で同市北区大沢(おおぞう)町の市立フルーツ・フラワーパークの泉源を利用していた疑いがあることが7日、分かった。さらに同パークの泉源を利用しているにもかかわらず、客に掲示していない施設も一部あったという。温泉法では、泉源の利用には自治体の許可が必要で、神戸市は有馬温泉観光協会有馬温泉旅館協同組合を通じ、許可申請を出すよう指導した。

 有馬温泉は金泉(含鉄ナトリウム塩化物強塩高温泉)と銀泉(二酸化炭素泉、放射能泉)があり、療養泉の主成分九つのうち七つが含まれ、世界的にも珍しい。日本三古泉、日本三名泉に名を連ねる。

 フルーツ・フラワーパークの泉源の湯も金泉と似た成分。同パークが開業した1993年、泉源を所有する神戸市と有馬温泉観光協会は協定を結び、有馬温泉で改修工事などにより湯が不足すれば、販売することを決めていた。市は開業当初から有馬温泉の施設に湯を提供しており、2013年度は13施設に1立方メートル当たり350円で販売したという。

 一方、市生活衛生課によると、同パークの泉源について、温泉法で定められた利用許可が出ているのは、13年度は8施設のみ。うち1施設は同パーク内にあり、提供を受けた有馬の13施設のうち7施設しか許可を得ていないことになる。

 同パークの泉源を管理する市農水産課は「販売の際に許可の有無は確かめていない」とし、給湯した施設は明らかにしていない。

 長野県の白骨(しらほね)温泉などで「温泉偽装」が問題となった04年、有馬でも許可を得ずに温泉を利用していた施設があった。その後、温泉法が改正され、源泉や泉質などを記した成分分析書の掲示も義務付けられている。

 有馬温泉観光協会の當谷正幸会長は「前回の反省を忘れてしまっていた。しっかりと指導していきたい」と話している。(高田康夫)

神戸新聞NEXT|社会|有馬温泉、湯量不安定別泉源頼み 旅館関係者「抜本的対策を」(2015/2/8 07:20)

 神戸有数の観光資源である有馬温泉の施設が、フルーツ・フラワーパークの泉源を無許可で利用していた疑いがある背景には、湯の不安定な供給がある。昨年5月から、神戸市が同温泉に所有する泉源「極楽泉源」が止まったままで、各施設は温泉の確保に困り、同温泉以外の泉源に頼らざるを得ない状況だ。

 有馬温泉には、旅館やホテルが所有する自家泉源約30カ所と神戸市の泉源4カ所などがあり、それぞれが使用する温泉を確保。実際にどれだけの湯量が使われているのかは分からない。

 同市観光コンベンション課によると、極楽泉源は12施設が利用。2012年夏ごろに湯量が少なくなり、13年1月から給湯量の制限を始め、5〜10月は利用できなくなった。市は改修工事を実施し、同11月に湯が出るようになったが、14年5月には別の場所から湯が噴き出すトラブルがあり、再び給湯が止まっている。復旧は6月末ごろを予定している。

 極楽泉源の停止とともに、同パークの泉源利用が増え、12年度は8施設、13年度は13施設、14年度は11施設に上る。これまであまり利用していなかった施設が許可を得ていないことも考えられる。

 ある旅館の支配人は「有馬の温泉ではないのかと残念がる客もいる」とし、「死活問題でもあり、早く抜本的な対策を取ってほしい」と市に求める。

 有馬と並ぶ日本三名泉の一つ、下呂温泉岐阜県)では、約40年前、泉源保護のため、湯を1カ所に集めて各施設に分配する「集中管理システム」が導入された。湯量を節約でき、泉質を保つこともできる。下呂温泉事業協同組合は「『自分のところだけ良ければよい』との考えを捨て、個人資産の泉源を供出できるかがポイントになる」とする。

 有馬でも、地元と神戸市などが「泉源保護協議会」をつくり、リゾート開発時の地下掘削で泉源に影響が出ないよう求めたり、温泉の元となる雨水の利用を控えたりしているが、湯の不安定な供給が続く。既存の泉源が止まった際に使う「バックアップ泉源」の必要性も検討している。(高田康夫)

神戸新聞NEXT|社会|有馬温泉の泉源無許可問題 3施設、神戸市に利用申請(2015/2/10 07:00)

 有馬温泉(神戸市北区)の旅館やホテルなど複数の施設が、同市北区の市立フルーツ・フラワーパークの泉源を無許可で利用していた疑いがある問題で、神戸市は9日、有馬温泉観光協会などに指導した後、3施設から泉源利用の許可申請が出されたことを明らかにした。無許可利用の疑いがあるのは少なくとも6施設で、そのうちの3施設とみられる。

 同市環境衛生課によると、5日に同協会や有馬温泉旅館協同組合に許可申請を出すように指導。その後、9日までに3施設が同パークの泉源利用の許可申請を提出、ほかに3施設が申請書類を取りにきたという。

 同パークの泉源について、温泉法に基づく利用許可が出ているのは、パーク内の温泉施設を除くと7施設。だが、泉源を所有する同市は2013年度に13施設、14年度は11施設に、同パークの泉源の湯を販売していた。

 有馬温泉では、12施設が利用していた同市所有の泉源「極楽泉源」が、昨年5月から改修工事のために停止するなどし、湯の確保が課題になっていた。

 この問題の背景について、同市の久元喜造市長は9日の会見で、泉源の利用許可や同パークの泉源管理などが市の複数の部局にまたがっている点を指摘。「連携不足が考えられる。直すべきところは早急に直していきたい」と述べた。

(高田康夫、小川 晶)

泉源管理に関するその他の研究など

有馬温泉の問題はさておき、共有地が「悲劇」に陥らないような管理制度がどのように自生するのかは興味深い問題で、複数均衡の動的な経路問題になる。また、望ましい制度へ至るための関与とコントロールが現実の個別事案に即して可能かという問題にもつながる。
共有林や入会地制度、漁業権などでは研究も見られるようだが、そちらはほとんど知らないので、とりあえず温泉源に関してヒットした研究をメモしておく。

金 承珠,藤井 敏信(2008)「温泉地における共有資源としての湯管理システムの研究」東洋大学大学院紀要第45巻17〜30頁(書誌詳細|国立国会図書館サーチ, 論文PDF

金 承珠(2011)「温泉地における地域マネジメントに関する研究―温泉管理主体の実態分析を中心に―」日本国際観光学会論文集(第18号)27-32頁(論文PDF

金承珠, 川澄厚志(2015)「米沢八湯における源泉管理及び泉質からみる温泉地の特徴― 地域資源有機的連鎖性の観点から ―」日本国際観光学会論文集(第22号)March,2015(論文PDF

中野 章洋(2005)「温泉資源の持続的効率利用を達成するための制度選択に関する研究」東京工業大学大学院社会理工学研究科修士論文, 学位論文梗概集(博士、修士、学士) 2006, No.37論文PDF

中村陽一(参議院環境委員会調査室)(2007)「温泉資源の保護対策と成分等の情報提供方法の見直し〜温泉法の一部を改正する法律案〜」立法と調査 2007.4 No.266