中岡哲郎による技術者の社会的責任論

社会的分業下における専門的職業人の責任と職業倫理として、研究開発活動の社会的影響にたいして配慮し責任を負うべきとする視点。

現代の社会における職業としての技術者の位置は、なによりも企業のサラリーマンであり、細分化された専門の範囲で、企業のあたえる課題を解決し目的を達成するテクノロジーをみいだす人である。その意味で技術者は自分たち個々の仕事が集積されて全体として社会にもたらす負の影響は、彼に課題をあたえた企業の責任であって自分の責任ではないと割り切りやすい場所にいる。しかし、それは彼が自分を技術者と自己規定するかぎり、欺瞞である。社会的分業のなかで専門機能を担う職業集団は、遂行する仕事から発生するすべての結果について社会に一定の責任をおうと考えるべきである。現代の社会に科学者や技術者の職業倫理を問う声が少なくないのはそのためである。これらの問題群は、技術者の作業の集積が社会にもたらした難問であり、その解決に取り組むことは専門職業人としての技術者の責任であり、職業倫理の問題であることを強調したい。

中岡哲郎鈴木淳・堤一郎・宮地正人編『新体系日本史11産業技術史』山川出版社、2001年、17−18ページ