経済・経営の授業の導入ネタ。

誰も管理せず全体を理解した人は一人もいないのに、何千年(いや何万年?)も持続しているシステム→人間社会
というネタで、分業と協業、交換と市場、特化と分断、疎外、知識とイノベーション、交易とグローバル化などへ展開するための材料として。

Amazon.co.jp: ゼロからトースターを作ってみた: トーマス・トウェイツ, 村井理子: 本

未読。工業製品の腑分けとその難しさを直感的に想像できる事例、価格の背後にある効率性の源泉について考える糸口などとして使えそう。
Amazonなか見!検索とレビューから抜粋とメモ。
一番安かったトースター:アルゴス・バリュー・レンジ、3ポンド94ペンス。
これの再現を目指した結果:

やぁ。僕の名前はトーマス・トウェイツ。この度、僕はトースターを作ったんだ。時間にして9カ月、移動距離にして3060キロ、そして金額にして1187.54ポンド(約15万円)をかけて。

安いトースターであるほど、使われているパーツも少なく、ゆえに再現するのも簡単なはずだという、根拠なき思い込みに則り、僕は一番安いトースターを選び、それを分解することにした。…中略…
根気強く分解を続けると、このトースターが157ものパーツからできていることがわかった。でも、それらのパーツはサブパーツから作られており、そのサブパーツはサブ・サブパーツから作られている。…中略…
すべての部品を「バラ」になるまで分解すると、部品数は404個に上る。
そして、そのバラになった部品を、材料別にわけようとすると、話はより難しくなってくる。正確な化学分析無しでは、2つのプラスチックが同じものなのか、あるいはまったく別のものなのかを判断することは、ほぼ不可能だからだ。…中略…
これだけ多くをつめ込んだものが、チーズ(それも高級じゃないやつ)の値段と変わらない、3ポンド94ペンスとかおかしいだろ?

●関連URL

現代の人間には、ものを作れる人、ものの作り方を知っている人は誰一人としていない、という話

分業・特化の利益という話よりも、交換が知識・技術の結合によって新たな知識・技術を生み出すという話。市場や創発、マネジメントや組織という話の枕としても。
マット・リドリー: アイディアがセックスするとき | Video on TED.comから日本語スクリプト

文化の進化において生物の進化に果たす生殖の役割と同じ効果をあげる変化は何でしょうか?私はそれを交易だと考えます。…中略…アダム・スミスも言っています。「いまだかつて犬と犬とが公正に骨を取引するのを見たことはない」(笑)
交換なしでも文化は成り立ちます。つまり無性生殖の文化が存在します。…中略…人類との異なりは、彼らの文化が決して拡大、成長しない、累積しない、結合されないことにあります。その理由はいうなればセックスしないからです。アイディアの交換がないからです。

自問してください。誰が誰のためにだけでなく、誰が作り方を知っていたのかを。石斧の場合には作った人が作り方を知っていました。しかしマウスを作ることは誰が知っているのでしょう。実際誰も知りません。マウスの作り方を知っている人は地球上に一人もいません。これは真面目な話ですよ。マウス製造会社の社長は知りません。彼が知っているのは会社の経営方法です。組み立てラインの工員も知りません。彼は油井を掘って石油を取り出し、プラスチックを作る方法を知らないからです。私たちは皆、断片は知っていますが、全体は把握していません。

私はこれを1950年代の経済学者レオナルド・リードの有名な論文から引用しています。論文のタイトルは「私は鉛筆」。その論文の中で、リードは鉛筆ができる過程と、誰も鉛筆の作り方を知らないことを論じました。組み立て係は黒鉛を採掘する方法を知らず、木の伐採方法なども知らないからです。人間社会の中で交易と専門化を通じて私たちが成就したのは、私たちが理解すらしていないことを成し遂げる能力です。それは言語とは異なります。言語を用いて私たちはそれぞれが理解しているアイディアを伝えますが、技術を用いれば私たちは能力を超えることを成し遂げ得るのです。

●マット・リドリーが引用した「レオナルド・リードの有名な論文」
Read, Leonard E. "I, Pencil: My Family Tree as told to Leonard E. Read", The Freeman, Dec. 1958, The Foundation for Economic Education, Inc.
I, Pencil - Wikipedia, the free encyclopedia→ここからいくつかの原文に飛べる。
原文:I, Pencil - Wikisource, the free online libraryRead, I, Pencil | Library of Economics and Liberty(1999年発行のパンフレット)
TEDが動画を作っていた。→TED-Ed | I, Pencil: The Movie

身近な日用品の思いがけない来歴と旅の長さ

Amazon.co.jp: 徹底解剖100円ショップ―日常化するグローバリゼーション: アジア太平洋資料センター, PARC=: 本
Amazon.co.jp: 生産と流通のしくみがわかる 100円ショップ大図鑑―安さのヒミツを探ってみよう!: PHP研究所, ピーエイチピー研究所=: 本
学生・生徒に、着てきた服の原材料や来歴について調べさせたり、その企画・販売にかかる経営ロジック、生産システムやビジネスモデルについて考えさせたりするのも面白い。