「参議院議員片山さつき君提出従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問に対する答弁書」に関する若干の資料

片山さつき氏が出していた質問主意書とそれへの回答が片山氏のサイトに公開されている。
片山さつき Official Blog : 先日、内閣に提出しました「従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問主意書」に対し、答弁書が戻ってきましたので全文を掲載致します。

答弁書は、ぱっと読むと事実関係がすごくわかりにくい文章だと思う。特に、文書は2種類あるみたいだけど、片山氏の要求する文書とかみ合っているのかが分からない。(もっとも、質問主意書でもどの文書を問題にしているのかわかりにくいんだけど。)この点について、例えば、hokke-ookami氏のエントリでも少し議論がされている。それで、たまたま、新聞記事データベースにアクセスできるので、ちょっと検索してみた。というか、このエントリを読んで自分も「?」と思ったのがそもそものきっかけなんだけど。

はじめに私の結論をまとめておくと、

  1. 国連人権委員会に際して日本政府が1996年3月に出した文書は2種類。
  2. 第一の文書は「『女性に対する暴力』特別報告官(クマラスワミ氏)により提出された報告の第一付属文書(従軍慰安婦関係)についての日本政府の見解」というA4判約40ページの資料。
  3. 内容は、かなり強い調子でクマラスワミ報告書を批判、各国に拒否を呼びかけたもの。
  4. この文書は国連には提出されなかった。二国間の働きかけで用いられた。
  5. 片山氏が質問主意書で言う「四十ページにわたる反論文書」とは、これのこと。
  6. 第二の文書は「女性に対する暴力及びいわゆる『従軍慰安婦』問題に関する日本政府の施策」
  7. この文書は第一の文書の後に出された。表現はかなり改められ、クマラスワミ報告書の批判・拒否呼びかけの多くが削除された。
  8. この文書は二国間の働きかけで使われたほか、国連に提出され、各国に配付された。
  9. 片山氏が「『もう日本は謝っている。…』という旨の文書」とは、これのこと。

ちなみに、経緯としては、

  • 1996年2月 「クマラスワミ報告書」が国連人権委員会に提出される。
  • 1996年3月 日本政府が各国に働きかけ。文書が二つ作成され、二番目の文書が国連に提出される。
  • 1996年4月 人権委員会において「女性に対する暴力撤廃」決議が採択される。日本も賛成。

となっている。
以下に、調べた資料を置いておく。(というか、検索した結果をだらだらと記すだけなんだけど。)
なお、半月城通信 No.20にある、(朝日新聞、ニュース速報,1996.5.8)と(朝日新聞、95.12.3)の記事は「聞蔵II」では見つけられなかった。収録されていない記事ってあるのかな…。

【追記】(2014年10月17日)
上記の半月城通信 No.20にある「朝日新聞、95.12.3」は、94.12.3の誤記であろう。
即ち、1994年12月03日朝刊のオピニオンページ(4面)に、「慰安婦問題 エイシアンウォールストリートジャーナル(世界の論調)」という記事がある。これは「世界の論調」という連載の一つとして取り上げられたもの。なお内容は聞蔵IIには掲載されていない。
他方、(朝日新聞、ニュース速報,1996.5.8)は縮刷版も確認したが不明。同日の朝日新聞朝刊26面には「『国連の慰安婦報告は恣意的』外務省が各国政府に非公式文書配布」なる記事があり、一部は半月城通信の記述と合致するが合致しない記述もある。

資料1:朝日新聞 1996年05月08日朝刊記事

ポイント1:「40ページの資料」のタイトルが書いてある。
ポイント2:第一の文書が「非公式文書」とされ、第二の文書が公式文書だとされている。

「国連の慰安婦報告は恣意的」 外務省が各国政府に非公式文書配布

 戦時中の従軍慰安婦を「軍事的性奴隷」として被害者個人への国家補償を求めた国連人権委員会の特別報告に対し、外務省が「恣意(しい)的、政治的で法の支配に対する重大な侵害となる」などと非難する非公式文書を作成、ジュネーブなどで各国政府代表団に配布していたことが七日、明らかになった。本岡昭次参院議員(新緑風会)が国連筋から原文のコピーを入手した。しかし、日本政府は文書配布後、この特別報告全体を含む「女性に対する暴力撤廃決議」には反対はせず、全会一致で採択されている。
 本岡氏が入手したコピーは「『女性に対する暴力』特別報告官(クマラスワミ氏)により提出された報告の第一付属文書(従軍慰安婦関係)についての日本政府の見解」と題したA4判約四十ページ。「日本軍が関与して多くの女性の名誉と尊厳を傷つけた事実について日本は深く反省している」としているものの、慰安婦制度を国際法違反だとする第一付属文書を「恣意的で根拠のない国際法の“解釈”に基づく政治的発言」「このような議論を受け入れるならば、国際社会の法の支配に対する重大な侵害となろう」と批判、拒否を呼びかけている。
 同日開かれた参院法務委員会で本岡氏は(1)人権委員会では配布直前に撤回し、激しい非難の表現を削除したものを公式文書で提出しているのはなぜか(2)そこまで非難しているのになぜ決議に賛成したか、などと追及。外務省側は(1)非公式文書は基本的には二国間の話し合いでわが国の立場を説明するためのもの。適切ではないので、わかりやすいものに書き換えた(2)決議では報告書については「留意する」との表現になり、評価はされていない――などの説明を繰り返した。

ちなみに、ヨミダス歴史館で読売新聞の記事を探したけれど、関連記事は見つからなかった。

本岡昭次参院議員(新緑風会)の質問とその応答から

出所:国会会議録検索システム
長いので文書に関するところだけはじめに整理し、議事録を後に示す。人権委員会決議についての考え方、特に「テイクノート」、「留意」のところも中々面白いので議事録本文を見る方がいいかも。

1.上記の第一文書「日本政府の見解」についての本岡議員の認識
  • この文書の中で、第一付属文書(従軍慰安婦問題に関する報告)について、日本政府は「徹底的に反対」「大変な言葉でもって反対」している。
  • この文書は、「幻の文書、国連で配付直前に日本政府が撤回をして、そして別の文書を出し直した」もの。

※この文書は川田氏が言う「二国間ベースで使った文書」だという共通認識で質疑応答が進んでいる。

  • 「クマラスワミ報告を拒否せよ拒否せよというのが三回も書いて」ある。
  • 記載1「実際には特別報告者の議論は恣意的で根拠のない国際法の「解釈」にもとずく政治的発言である。」
  • 記載2「国際社会がこのような議論を受け入れるならば、国際社会における法の支配にたいする重大な侵害となるであろう。」
  • 記載3「そこで人権委員会が、事実の不正確な記述と国際法の間違った解釈に基づく「法的」議論を提起しているこの追加文書を拒否し、また「慰安婦」問題と女性にたいする暴力一般の問題について日本がとった行動を適切に認めることを繰り返し強く希望する。」
  • 「きちっと国連に正式の文書として、印刷直前までやって、私の聞くところでは、アラビア語の訳までできておった」
2.国連人権委員会で配布した文書「日本政府の施策」との違いについての本岡議員の認識
  • 「国連に配付した文書は全然そういうところがない。全部削除されてしまって、国民基金でやりますからどうぞ日本を認めてくださいというような文書になってくるわけなんですね。」
  • 「ごく穏やかなものが、重大に留保しますという言葉」、「重大に留保するという言い方」

※各国に報告書拒否を呼びかける檄文から、「留保する」という日本個別の立場を説明する内容にトーンが後退している。

3.本岡議員の事実認識

日本政府は、人権委員会決議直前まで三日間にわたり、第一付属文書の従軍慰安婦問題に関する記載の削除を徹底して要求した。だがこの主張は国際社会の中に受け入れられることなく、付属文書を含めてクマラスワミ報告は支持されることとなった。
「拒否すべきものであると言い、そして先ほど私が何回も引用しましたように、国際社会における法の支配に対する重大な侵害であるから削除しなさい削除しなさいと言っても削除できなかった。それで、審議もするなと言って求めたけれども、審議は行われた。韓国、中国初め十カ国から、またNGOも二十数カ国がこれを歓迎した。日本のこの立場を支持した国は一国もなかった、全く日本は国連人権外交において孤立化した」

4.政府側答弁者、川田司氏の説明
  • 文書は二種類ある。
  • 「一つは、我が国政府として我が国の立場を説明した文書を国連文書として人権委員会の場で配付」
  • 「それとは別に、各国ベースに対して我が国の立場をきちんと述べるという意味で二国間ベースで使った文書」

※二つの文書の内容は基本的に同一で日本政府の主張にぶれはないという立場を強調している。

資料2:本岡昭次参院議員(新緑風会)の質問と政府側答弁(1996(平成8)年5月7日参議院法務委員会議事録)

(前略)
それでは、国連人権委員会の問題についてお伺いします。
 三月十八日から第五十二回国連人権委員会が開かれました。私も、一週間国会を休ませていただいて、これに参加してきました。そして、そこでは、旧日本軍が戦争中に行った慰安婦問題これに対する審議が行われました。この慰安婦問題は、人権委員会で軍事的性奴隷というふうに位置づけられて、そして日本の法的責任が厳しくそこで求められるということになり、クマラスワミ女史の報告も決議として採択されるようになりました。その採択は四月十九日に行われて、この外務省の仮訳によりますと、この女性に対する暴力、その原因と結果に関する特別報告者の作業を歓迎し、報告をテークノートするということで、無投票でコンセンサス採択されたということになっております。
 この無投票でコンセンサス採択と言っておりますが、このクマラスワミ報告は全会一致で採択されたと。日本も反対しなかったということは、賛成したというふうに理解してよろしいですか。

○説明員(川田司君) お答えいたします。
 先生ただいまの御指摘の決議は、いわゆる女性に対する暴力撤廃に関する決議であると考えておりますけれども、この決議は家庭内暴力など今日の社会においていわゆる緊急の課題となっている女性に対する暴力の撤廃に関するものでございまして、いわゆる従軍慰安婦問題についての決議ではございません。このような女性に対する暴力の問題、我が国も大変重要な問題と考えておりまして、この決議に賛成いたした次第です、といいますか、コンセンサス採択に参加したというのが事実でございます。

本岡昭次君 それであるならば、なぜ事前に、女性に対する暴力に関する特別報告者により提出された報告の追加文書Ⅰ、アドⅠについて日本政府の見解なるものをわざわざ関係諸国に配付して、この従軍慰安婦問題について日本政府の立場を説明して、それが拒否されるようになぜ各国に求めたんですか。この文書の存在をあなたは認めますか。なぜこういうものを事前にそれじゃ配らなければならなかったんですか。それで、この文書認めますか。

○説明員(川田司君) 先生御指摘の点でございますけれども、先生の最初の御質問にありましたように、クマラスワミ報告者の報告書というのが出ているわけでございます。
 報告書は、報告書本体というのがございまして、これは女性に対する暴力に関する報告書でございます。それと附属書が二つついておりまして、附属書の第一の附属文書といいますのがこのいわゆる従軍慰安婦問題を扱った報告書でございます。それから、第二の附属文書と申しますのがいわゆる家庭内暴力の法的側面を扱った文書でございます。
 先ほど私が申し上げました女性に対する暴力撤廃に関する決議におきましては、この報告書全体
をテークノートするという形で、いわば報告書、従軍慰安婦関係も含めた報告書全体が言及されているという形でございます。ただ、これはあくまでもテークノートということでございまして、一般的には記録にとどめるとか記録するとかあるいは留意するというふうに訳されている言葉でございます。

本岡昭次君 私の質問に答えてください。わざわざ日本政府は、この女性の暴力に関する議論の中に、附属書の一ですね、アドーの従軍慰安婦問題についてクマラスワミさんが述べている事柄に対して徹底的に反対していますね。大変な言葉でもって反対しておりますね。なぜここまでやらなければならなかったんですか。女性に対する暴力全般ならもっと素直に臨めばいいじゃないですか。
 この文書の存在を認めますね、幻の文書、国連で配付直前に日本政府が撤回をして、そして別の文書を出し直したといういわくつきの文書。この存在を認めますね、まず。

○説明員(川田司君) 先生が今お持ちの文書がどの文書か定かでありませんけれども、一つは、我が国政府として我が国の立場を説明した文書を国連文書として人権委員会の場で配付いたしました。それから、それとは別に、各国ベースに対して我が国の立場をきちんと述べるという意味で二国間ベースで使った文書というのもございます。

本岡昭次君 それじゃ、この文書の存在認めますね。認めますって言いなさい。

○説明員(川田司君) ちょっとよく見えないんですけれども、その文書が最初二国間ベースで使った文書でありますなら、その文書は確かに存在いたします。先生もお持ちですから。

本岡昭次君 いや、あなたに見せると、だれからどこから入手したかということを調べて、またその出した人をあなた方は厳しい目に遭わせるからやめます。
 そこで、この文書を私は日本語に訳された文を読んだんですが、これは大変なんですよ。このクマラスワミ報告を拒否せよ拒否せよというのが三回も書いてあって、特に私は唖然としたのは、「実際には特別報告者の議論は恣意的で根拠のない国際法の「解釈」にもとずく政治的発言である。」と書いてある。「国際社会がこのような議論を受け入れるならば、国際社会における法の支配にたいする重大な侵害となるであろう。」、どういうことですか。ここまで書かにゃいけなかったんですか。そして、結論として、「そこで人権委員会が、事実の不正確な記述と国際法の間違った解釈に基づく「法的」議論を提起しているこの追加文書を拒否し、また「慰安婦」問題と女性にたいする暴力一般の問題について日本がとった行動を適切に認めることを繰り返し強く希望する。」という文書を事前に配付したんですよ。そして、国連に配付した文書は全然そういうところがない。全部削除されてしまって、国民基金でやりますからどうぞ日本を認めてくださいというような文書になってくるわけなんですね。
 それで、そうすると日本政府は、ここに書いてあるように、クマラスワミ女史が一応調査をしてそして公式に人権委員会に出した、附属文書であっても公式の文書ですね、その文書を政治的発言というふうに決めつけて、そしてこれを受け入れたら「国際社会における法の支配にたいする重大な侵害となるであろう。」と言ったんですよ。それで、これが留意であろうと何であろうと、テークノートという言葉の解釈は私もいろいろ調べましたから後でやりますけれども、一応それは記録にするにしろ留意するにしろどんな言葉にしろ、消すことのできないものとして国連の中に残ったわけでしょう。そのことに対して日本が今言いましたように議論を展開したという、このことは消せないでしょう、これ。何カ国にもお渡しになったんですよ、二国間というけれども、こんな文書を。これ責任は重大ですよ。私の言っていることに間違いありますか。

○説明員(川田司君) 日本政府の立場でございますけれども、二月六日に官房長官が明らかにしておりますが、いわゆる従軍慰安婦問題に関するクマラスワミ特別報告者の報告書第一附属文書の法的に受け入れられる余地はないという考えに基づきまして、そのような立場で人権委員会に臨んだわけでございます。先生お持ちの資料につきましても、基本的にはそういった考え方に立って作成した文書でございます。

本岡昭次君 そうすると、国連は国際社会における法の支配に対する重大な侵害になるものを採択したんですか、みんなで。だから、日本政府はその直前までアドI、附属文書の一、従軍慰安婦問題が書かれてあることの削除を徹底して三日間求めてあなたも頑張ったんでしょうが、抵抗したんでしょう。だけれども、国際社会の中に受け入れられることなく、アドIもアドⅡも一つの文書としてクマラスワミ報告は、コンセンサス採択にしろ何にしろそれは支持されたことになったわけじゃないですか。
 そうすると、国連は、何ですか、人権委員会はこのクマラスワミさんの政治的発言を受け入れて、そして法の支配に対する重大な侵害とまで日本が言い切ったものを受け入れたという、この関係はどうなるんですか。日本はこれからどうするんですか、これ。国連の人権委員会から脱退するんですか。

○説明員(川田司君) お答えいたします。
 クマラスワミのいわゆる第一附属文書が採択されたということでございますけれども、それは先ほどから申し上げますとおり、この報告書はテークノートされたにすぎないわけでございます。
 私どもの考えとしましては、このテークノートといいますのは、記録にとどめるとか記録するとか留意するとかいうことでございまして、いわば評価を含まない中立的な表現でございます。したがって、採択されたというのは必ずしも適当ではないと思います。

本岡昭次君 それではお聞きしますが、過去の日本が国際社会の中でいろいろな条約を結び、また共同宣言をし、共同声明をなした中にこのテークノートというのはしばしば使われているでしょう。これを日本語に外務省はどう訳してきましたか、今まで。テークノートというのをどう訳してきましたか、留意と訳してきましたか。

○説明員(川田司君) 先ほど来述べておりますけれども、一般的には記録にとどめる、記録する、留意するといった訳語が使われております。

本岡昭次君 そんなことありませんよ。テークノートという言葉を訳しているのを見ると、この一つだけ例を取り上げますと、一九七四年十二月九日の国連総会決議で盛んにこのテークノートという言葉が使われているんです。これは全部、注目する、注目する、注目して何々をする、その報告を注目してどうする、その決議を注目してどうするという、そういう言葉なんですよ、注目する。
 それで、その留意というふうにあなた方が無理やり訳すけれども、しかし、今まで留意と訳したのは皆、マインドフルザットとか、ハビングインマインドとかいう言葉を皆留意と訳していますよ。見てみなさいよ、私、これずっと調べたんです。これは見せてもいいですよ、秘密じゃないからね。
 だから、あなた方が好き勝手にいろんな、時には、評価を伴わない単なる言葉ですと言い、あるところでは注目しとして、注目するという言葉はこれはどうですか、無視できない言葉でしょう、注目するという。そうでしょう。留意だって、字引引いてみなさいよ。心にとめ置くとかいろんな、あなた、それなりの意味を持っているじゃないですか。
 だからあなたは、外務省は、テークノートするだから大して意味がないんだという態度を、これからもこの人権委員会を中心とする国際社会の中でこの附属文書を見ていかれるのですか。それで、その注目すると今までずっと訳してきた、今回はこれは注目するとは訳さないんですか、テークノート。

○説明員(川田司君) 先生御指摘の総会決議、注目すると訳されたのは、外務省でそう訳したのかどうかわかりませんけれども、一般にはテークノート、記録する。確かに、注目するという訳もあるかもしれません。ただ、ここでテークノートするという本来の意味はどういう意味かといいますと、通常、こういった特別報告者の報告書というのは歓迎されるとかいう言葉を使われるのが通常であるわけですけれども、何らかの問題があるといったような場合に、よくテークノートという言葉を使うわけでございます。
 したがいまして、今回の決議につきましても、そういった趣旨でテークノートという言葉が使われている。我々としてはこれにつきましては、評価を含んでいない極めて中立的な言葉であるというふうに理解しているわけでございます。

本岡昭次君 それは国際社会の中で通用するんですか、今のあなたの解釈が。

○説明員(川田司君) 実はこの決議案、私が交渉に参加したんですけれども、交渉参加当事国の間でのそういった理解に基づいたテークノートという言葉が使われたものだと理解しております。

本岡昭次君 しかし、先ほど言ったように、拒否すべきものであると言い、そして先ほど私が何回も引用しましたように、国際社会における法の支配に対する重大な侵害であるから削除しなさい削除しなさいと言っても削除できなかった。それで、審議もするなと言って求めたけれども、審議は行われた。韓国、中国初め十カ国から、またNGOも二十数カ国がこれを歓迎した。日本のこの立場を支持した国は一国もなかった、全く日本は国連人権外交において孤立化したというこの事実は認めますか。

○説明員(川田司君) 先ほど来申し上げていますけれども、クマラスワミ特別報告者の報告書といいますのは、家庭内暴力を扱った報告書本体、それから第二附属文書、それからいわゆる従軍慰安婦問題を扱った第一附属文書から成るわけでございます。
 この件につきましては、人権委員会におきましていわゆる女性に対する暴力撤廃に関する本会議の審議において議論されたわけですけれども、私どもの承知する限り、いわゆる従軍慰安婦問題ないしこれを扱いましたこの報告書第一附属文書に言及した国は、我が国のほかは、韓国、中国、フィリピン及び北朝鮮の四カ国であったと理解しております。また、このうち特にフィリピンは我が国の取り組みを評価する発言をしたわけです。また、この問題に何らかの形で言及したNGOは、本会議で発言したNGOというものは全部で五十四団体あったわけですけれども、このうち約十団体であったと理解しております。
 女性に対する暴力に関する討議の焦点は、報告書本体及び第二附属文書にある家庭内暴力の問題、あるいはまたセクハラ等社会における女性に対する暴力の問題といった現代社会の直面する問題であったというふうに承知いたしております。

本岡昭次君 どうも皆すれ違って時間がもったいない。
 それで、最後にあなたに一点お伺いします。
 そうすると、配付直前に撤回した、幻の文書になっておるんですが、この資料、これが最後に撤回されて別のその文書が出された、ごく穏やかなものが、重大に留保しますという言葉で。なぜこの最初に出した文書をきちっと国連に正式の文書として、印刷直前までやって、私の聞くところでは、アラビア語の訳までできておったけれども、だめだと引き取って別のものを出したと。なぜそこまでしなければならなかったんですか。

○説明員(川田司君) 先生お持ちの資料は、基本的には二国間の話し合いといいますか、二国間で我が国の立場を説明する際に使う資料として作成したものでございます。ただ、国連人権委員会の場におきましては、こういった大部の資料を配付するのは必ずしも適当でないということで、もっとわかりやすい文書ということで簡単な文書を作成したわけです。
 ですけれども、この国連人権委員会で配付した文書も、基本的にはその最初の文書と内容的には同じものである、基本的には簡単にしたものであるというふうに理解いたしております。

本岡昭次君 いや、そうはなっていないじゃないですか。最後は重大に留保するという言い方、片一方は拒否する拒否する拒否するということでもって審議さえさせないというふうな立場での臨み方が、何で最後重大な留保ということなんです。やっぱり国際社会の中で日本も、こういう文書を出すとこれは大変なことだということであなた方はやわらかい文書に書き直したんでしょう。そこは認めなさいよ、はっきりと。

○説明員(川田司君) 国連文書として配付した文書の中でも、そのクマラスワミ特別報告者の法的議論については我が国として受け入れられないということを述べておりまして、基本的には同じ内容でございます。

本岡昭次君 そうしたら、あなたは最後まで、今でもこのクマラスワミのアドIの附属文書、日本の従軍慰安婦問題の書いてあるところは、恣意的で根拠のない国際法の解釈に基づく政治的発言、国際社会がこんな議論を受け入れたら国際社会における法の支配に対する重大な侵害になると、今もあなたはそう思っていますか。
○説明員(川田司君) はい、基本的にはそのように考えております。

本岡昭次君 これ、また改めて別のときに。
 最後に、ちょっと国民基金、せっかくおいでやから一問だけ。
 国民基金、今いろいろざわついておりますね。せっかくなってもらった偉い人がやめるややめぬじゃ言って、あるいはまた金を渡そうと思うけれども、金が集まっていないんでどうしようやと。そこで二つ尋ねます。
 金が予定どおり集まらなかったときは政府からお金を出してもらうんや、こう言っていますね。それで政府は、国は出すんですか。国民から募金している金で予定額が集まらなければ、その差額は国の予算から出すんですか。
 それと、内閣総理大臣に署名入りでその謝罪文を書いてもらうということを言っておりますが、橋本総理が書けるんですか。国民基金のお金を渡すときに、民間団体がお金を渡すときに一国の総理大臣がそれに対して謝罪文書けるんですか。この二ついかがですか。

○説明員(東良信君) 御説明申し上げます。
 ただいま先生が御指摘ございましたとおり、国としてお金が出せるかということにつきましては、やはり我々といたしましては、さきの大戦にかかわる賠償問題等々につきましてはいわゆる国際法上整理をしているというふうに考えておりますので、そういうお金は出せないというふうに考えております。
 それから、二点目におっしゃいましたことでございますけれども、政府といたしましては、昨年の六月十四日に当時の五十嵐官房長官が、元従軍慰安婦の方々に国民的償いをあらわす事業を実施する折に、元従軍慰安婦の方々に対して国として率直な反省とおわびの気持ちを表明するという形でお話をしてございます。現在、そういう形で検討を進めているということでございます。

本岡昭次君 時間が来ましたから、もっとやりたいんですが、また改めて。

片山さつき議員の質問主意書と政府の答弁書

最後に、質問主意書答弁書を載せておく。

従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問主意書

 弁護士の戸塚悦朗氏は、一九九二年二月、国連人権委員会従軍慰安婦問題を「日本帝国軍のセックス・スレイブ」だとし、NGOとして初めて提訴した。彼は、一九九二年から一九九五年までの四年間に、国連に対して合計十八回のロビー活動を行い、一九九六年にはついに国連人権委員会で特別報告書(クマラスワミ報告書)が提出・採択された。本報告書採択の際の政府の対応につき、以下、質問する。
一 クマラスワミ報告書には、「本報告書の冒頭において、戦時下に軍隊の使用のために性的奉仕を行うことを強制された女性の事例を軍隊性奴隷制(military sexual slavery)の慣行であると考えることを明確にしたい」とある。これにより、国連の報告書に「セックス・スレイブ」という言葉が入った。当時、外務省は、クマラスワミ報告書が採択される前に、四十ページにわたる反論文書を提出した。ところが、これがなぜか突然、撤回された。なぜ、報告書採択直前になって急遽撤回に至ったのか。その理由・経緯について説明するとともに、政府の見解を明らかにされたい。
二 クマラスワミ報告書採択当時の橋本政権においては、社民党が与党であった。日本政府は、クマラスワミ報告書へ反論する代わりに、「もう日本は謝っている。財団法人女性のためのアジア平和国民基金も作っている。」という旨の文書に差し変えてしまった。これにより、この見解が日本政府の国際社会に対する立場になってしまった。政府がこのような対応を採った理由・経緯について説明するとともに、政府の見解を明らかにされたい。
  右質問する。

参議院議員片山さつき君提出従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問に対する答弁書

一及び二について
 国際連合人権委員会が任命したクマラスワミ特別報告者による報告書(以下「クマラスワミ報告書」という。)が、平成八年二月に、国際連合に提出されたことを受け、我が国は、同年三月に、クマラスワミ報告書に対する日本政府の見解等を取りまとめ、同委員会の構成国を中心とした各国(以下単に「各国」という。)に対して働きかけを行うとともに、国際連合に提出した。
 また、同委員会において「女性に対する暴力撤廃」と題する決議が、同年四月に採択されたが、その過程において、当該決議の案文がクマラスワミ報告書に言及していることから、我が国の立場についてできるだけ多数の国の理解を得ることを目指し、我が国が、同年三月に、「女性に対する暴力及びいわゆる「従軍慰安婦」問題に関する日本政府の施策」と題する文書を改めて作成し、各国に対して働きかけを行うとともに、当該文書を国際連合に提出した結果、当該文書が国際連合の文書として配布されたものである。
 当該文書においては、平成五年八月四日の内閣官房長官談話にも言及しつつ、女性のためのアジア平和国民基金を通じた取組等について説明し、また、我が国の立場として、いわゆる従軍慰安婦問題を含め、先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国として、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)及びその他関連する条約等に従って誠実に対応してきたところであり、これらの条約等の当事国との間では、法的に解決済みであって、クマラスワミ報告書における法律論の主要部分につき、重大な懸念を示す観点から留保を付す旨表明している。
 なお、同委員会が任命した特別報告者による報告書を同委員会で採択する慣行はなく、通常は、当該報告書に関連する同委員会の決議において、当該報告書が言及されるものと承知している。